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退屈日記「ロックダウン解除後の世界が恐ろし過ぎてビビってる理由」 Posted on 2020/05/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、八百屋に買い物に行ったら、店主のマークアレクサンドルが「ムッシュ、角のラボラトリー(血液検査などをするクリニックだが、日本にはないシステム)で、コロナ抗体検査がはじまったよ」と教えてくれた。「予約制?」「いや、行けばすぐやってくれますよ。僕は土曜日に行くつもり」と教えてくれた。「血を抜いて調べるだけだから、超簡単らしい。無症状の人も多いというから、自分が抗体を持っているのかどうか、過去に罹っていたのかどうか、チェックしてみることにした。娘もまだちっちゃいしね」と言った。
家に帰って息子に「一緒に行くか」と誘ったら、「抗体を持っていようが、持ってなくてももう関係ない。2か月家から出てないのだから、隔離は終わっているし、今のぼくは感染していないのは明らかだからね、行かない」と言った。この子の持論の展開は潔い。「でも、ロックダウン前に罹っていたかどうか、わかるし、抗体を持っていたらあまりびくびくしないで済むんだよ」「パパがやったら、ぼくも一緒だから、二人で行く必要ないでしょ」と拒否されてしまった。抗体を持っても3か月後に消えた人もいるので確かに意味があるのかどうか分からないけど、とりあえず、ぼくだけ行ってみようかな、と思った。でも、予約もなく、いきなり行って抗体検査が出来るところまでは、フランス、来たんだね。



あと、三日でロックダウンがとりあえず終わる。週明けの月曜日から、ぼくらは自由に外出出来るようになる。正直、言って、ぼくはまだぜんぜん早すぎると思っている。たしかに、集中治療室に入っている患者さんの数は最も高かった時の半分に減った。死者もだいたい、そのような推移で右肩下がりに転じている。でも、まだ日に、100人台、200人台の死者が出ているのだ。韓国のようにゼロという状態じゃないのに、学校や会社を再開させて、大丈夫なわけがない。ぼくの予想だけど、ラテンなフランス人は街に繰り出すと思う。とくにおさえ込んでいた若い連中がドバっと溢れ出るだろう。そこで再び感染拡大するのは目に見えている。エドワー・フィリップ首相は再び感染者が増加したら、すぐにロックダウンを再開する、と言った。ぼくは遠からずそうなると予想している。その犠牲者に加わらないためにも、ぼくは自衛的自粛を続けるつもりだ。結局、罹りたくない人、絶対に罹っちゃならない人は、政府の方針よりも、自分の方針を決めて取り組むべきだ。自衛こそ、最大の防御である。年内は個人的ロックダウンを続ける予定で、学校に戻る息子にはそれなりの装備を徹底させるし、バレーボールのクラブ活動は禁止とする。ぼくがもしも罹ったら、息子も生活できなくなるからだ。自衛しかない。「ロックダウン解除、おめでとう」と日本の友だちからもメールが届く、いやいや、むしろ、怖いのは解除後の世界なのである。 



退屈日記「ロックダウン解除後の世界が恐ろし過ぎてビビってる理由」

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