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滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」 Posted on 2020/05/15 辻 仁成 作家 パリ

【加筆訂正版にあたっての注釈】二週間前の記事ですが、加筆訂正して再度配信します。結論としては、パリで突然全国民に配布されたマスクは批判されず、なぜアベノマスクはあそこまで批判されたのでしょう。実はぼくが貰ったマクロンノマスク、かなり使えない代物でした。ただ、市や県によって全部違うみたいで、中には立派なのもあったみたいです。ぼくはがっかりしましたが、喜んでいる人もいました。マクロンノマスクは何の説明もなく配布されたのが功を奏したのかもしれません。一方、アベノマスクは配るぞという前情報が大きく、466億円もかかり、結果配られたものに不良品が多く(その点検に8億円もかかり)、しかも、今日現在まだ、2割程度しか配布されていないという点など、残念な失敗が重なったのだと思います。さて、でわ、過去記事ですが、加筆訂正した、マクロンノマスクについての日記を、ご一読ください。

某月某日、もう二週間以上前になるけど、ロックダウンの解除前、突然、フランスでもマスクが配布されはじめた。保健相がロックダウン解除と同時に全国民にマスク配りますよ、と言っていたけど、正直、こちらではあまり話題にはなってなくて、知り合いから配布が始まったよ、と教えられたので慌ててネットで調べたらそういうサイトがあって、息子とぼくの情報を書き込んで注文したら、2月14日の13時以降近くの薬局で受け取れるというメッセージが届いた。そこで行ってみたらあっさりと二枚貰えた。どうやらパリ市は三種類のマスクを作ったらしく、どれが割り当てられるかは貰うまでわからない。ぼくは鴨のくちばし型の青いマスクだった。こういうことを言ったら罰が当たるかもしれないが、かなり薄っぺらのマスクだった(ごめんなさい)。だからか、付けてる人をまだ見たことがない。説明書を読んだけど、「本マスクは、手術用マスクでも、FFP2と言われるコロナウイルスを通さないマスクでもないので、社会的距離は守るように」と書かれてあった。でも、形はFFP2とそっくりなところがウケた。通気はよく、ウイルスは軽々と通り抜けられるな薄さと素材であった。一応、かぶってみた。なかなか、シュールな姿になった。鴨の辻。

滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」

滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」



滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」

ちなみに、こちらは4区周辺で配られたマスクで、他にはティファニー・ブルーのマスクがあったらしい。何色が割り当てられるかは、貰うまでわからない。

ボルドー在住の書道家MAAYA氏のところにはボルドー市からロックダウン解除前日に郵送で届けられたという。形も素材も全然違っている。コットン製で、かなり大きく、顎まで隠れる安心感があり、MAAYA曰く、ボルドーの愛を感じた、のだとか。パートナーさんが医療関係者なので、その方曰く、市販のマスク並みにウイルスを近づけないのではないか、とのことであった。フランスの京都とも言われる古都ボルドー、さすがである。ちなみに、写真を送って頂いたので、ごらん頂きたい。ボーダーのシャツを着ているのはただの偶然である。(笑)。

滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」

滞仏日記「マクロンマスクの配布はじまる」



しかし、フランスではずっとマスク不足が続いており、それがずっと問題になっていた。なので政府もロックダウン解除までには国民に届けようと頑張ったのかもしれない。どのくらいの予算が掛ったのかは分からない。日本のように今後論点になるかもしれないが、今はほぼ話題にのぼっていない。なぜなら、手術用マスクは市場に戻って来ており、今はどこでも(薬局でもスーパーでも)普通にマスクが買えるようになった。パリ市から貰ったこのマスク、対ウイルスの観点からいうと、やや厳しい感じがする。たぶん、ぼくはしないだろうな、と思う。頂いた二枚のうち、一枚には、内側に糸くずが混入しており、一度洗わないと怖くて使えないような状態であった。

「妊婦用に配布されたマスクに黴や遺物の混入があったことを受けて、8億円を見込んで550人態勢で目視で検査し直す」という日本の記事を今朝読んだ。製作費に466億円かかり、しかも、まだ配布が行きわたっていない布マスクだそうだが、さらに検査に8億円っていうのは、実にもったいないなぁ、と思った。そのマスクが国内隅々の家庭に届く前に、市販のマスクが市場に出回っていたのはフランスも一緒だった。でも、政府も国民を思ってやったことなのだろうから、あまり批判ばかりしたくはないけど、そのお金をワクチン開発とか、医療従事者の安全確保のために回せなかったものか、と思うと残念でならない。

フランスも感染拡大が始まった頃、政府も「マスクは必要がない」というようなことを力説していた。ところが最近、大臣たちはマスクを推奨している。大量の備蓄マスクの紛失事件なども重なり、フランスでもマスク問題は政権の頭痛のタネになっている。 

自分流×帝京大学