JINSEI STORIES

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」 Posted on 2023/02/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子からひっきりなしに、連絡が入っていたので、電話をした。
「どったの?」
「古いハンディビデオとかない?」
「え? 何に使うの?」
「自分のミュージックビデオを撮るんだけど、ちょっと古い機種で撮影して雰囲気だしたいんだよね」
そんなものあるわけないじゃん、と思って足元をみたら、買ったはいいけど使ったことがなかったキャノンのカメラが転がっていた。ありゃ・・・。
「あ、あったわ」
「マジ」
「でも、これから田舎に三四郎と戻るんだけど、いつ必要なの?」
「明日」
「じゃあ、カレーでも作るから食べに来るついでに渡そうか? 早めに来れる? 11時とか」
「ありがたい。行く」
ということで不意に息子が来ることになった。早い時間のランチ後に出発すれば、夕方、陽が沈む前には着く。ちょうどよかった。生活費も渡したかったし・・・。

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」



ということであわててカレーを作った父ちゃんであった。
カレーは多めに作ったので残りは午後出勤する長谷川さん用に残しておこう。まかない、まかない。
息子がやって来たので、ビデオを渡し、一緒にカレーをつついた。
「パパのカレーは辻家の味だね。何が入っているの?」
「ふふふ、秘密。ルーだけだと物足りないからね、隠し味に、ウスターソースをいれるんだよ。酸味が出て美味しくなる」
「へー、やってみよ。辻家の味をまもらないと」
「いいねー。あ、今度、十斗家のごはんをご馳走になりに行きたいんだけど」
なんとなく、ふってみた。
「え、いいよ」
「マジか」
「昨日はミラネーゼを作った」
「ほー、肉はマリネしたの?」
「いや、パン粉にガーリックとかレモンの皮とかカイエンヌペッパーとかエスプレット唐辛子とか、いろいろといれた。肉はそのままだけど、衣に味がある」
「ほー。それいいね」
「だんだん、一人暮らしの味が出来つつある」
ということで息子にキャノンの未使用のビデオを渡し、ぼくらは自宅兼事務所を出ることになった。
息子が、撮影機材を買いに行く、というのでモンパルナスのフナックまで送った。
「これ、ハイブリッドじゃん」
「そうなんだよ。一度充電すると60キロは電気で走る。電気がなくなるとガソリンにかわるんだ。高速の充電スタンドで30分もあれば、再び電気で走ってくれる」
「パパ、大学生になったから、運転免許をとってもいい? 夏休みに」
「いいけど、運転するの?」
「ぼくがパパの運転手になるよ」
「あはは」
『ぼくが大きくなったら、空港までパパを車で迎えに行くよ』というのがこの子の口癖だった。6,7歳くらいの頃の・・・。
「じゃあ、日本出張の時、空港まで迎えに来てくれるかな?」
「え? ああ、もちろん」

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」



ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」

3時間半、ノンストップで走り、ノルマンディのアパルトマンに到着した。
田舎のアパルトマン、だんだんと生活感が出てきたので、帰って来たという感じになった。
残った食材は保温バッグにいれて、陸送している。二拠点生活者ならではの、保冷バック移動である。
この二拠点生活にも慣れてきた。
家に着くと、空気の入れ替えをし、風呂にお湯をはり、まず、お風呂に浸かる。
ここのアパルトマンで一番落ち着く場所は、なんといってもお風呂なのである。
小窓からノルマンディの海岸が見渡せる。
疲れた心と身体を休ませ、飛び交うかもめを見ながら、頭と心を休める。
太陽が英国海峡の向こう側に沈んでいく。今夜は何を食べようかな、と考える父ちゃんなのであった。
フランスの田舎はどこもおしゃれだし、可愛いので、パリとはぜんぜん違う魅力が溢れている。明日は、三四郎と新しい車でノルマンディの田舎巡りでもやろうかな、と思っている父ちゃんなのでありました。
暫く、また、田舎から、おおくりいたしますね、お楽しみに。

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
パリは建物が繋がっているから、大きな声で歌うと近所迷惑になるのだけれど、田舎は建物が独立しているし、ぼくと三四郎以外、どうやら住人がいないみたいなので、夜も朝も、歌い放題なのであります。オランピア劇場でのライブに向けて、がんばるよ。エディット・ピアフやビートルズなど、オランピアに立った偉大なミュージシャンたちの姿を想像しながら、練習に励む父ちゃんなのでありました。えへへ。
さて、3月19日は、歌手ではなく、作家の父ちゃんが講師をつとめます、「気まぐれ文章教室」が開催されますよ。魅力ある文章をどうやって書くのか、その研磨の方法など、具体的な指導をしたいですね。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。

地球カレッジ

ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」



ノルマンディ日記「出発しようとしていると息子がやってきた。想い出が頭をよぎる」

そんな料理好きな父ちゃんのパリでのライブは、5月29日、エディット・ピアフも立ったあのオランピア劇場で開催されまーす!!!

チケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。JALパックさんが誠心誠意優しくアシスタントしてくださいます。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru

自分流×帝京大学