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滞仏日記「息子がガールフレンドの家に泊まった」 Posted on 2019/05/28 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、息子が女友だちのIちゃんの家に出かけ、一泊して戻って来た。前もって決まっていたことだが、はじめて女の子の家に泊まってくるという事態に父は緊張した。といってもフランスではお泊りの誕生日会のことをピジャマパーティ(ピジャマとはパジャマのこと)と呼び、未成年の子供たちの間では頻繁に行われている。親御さんの監視のもと、子供部屋で5~6人の子供たちが雑魚寝をし、朝まで騒ぐ会となる。今回珍しいのは女の子の家に招待されたということ、集まった子たちは息子以外は全員女子。ちなみに、Iちゃんは息子の恋人ではなく一番仲良しの女の子にあたるそうで、僕も一度か二度スカイプ越しに話をしたことがあるが、明るく聡明な15才である。お母さんも絵にかいたようなフランスのお母さん(マモン)なのだそうだ。しかし、内気な我が息子が女の子たちと一緒に一晩過ごせるとはどうしても思えない。心配したけれど、何事も勉強なのだから、行ってこい、と背中を押すことになった。

彼女の家があるコンフランという町はパリから電車で30分、郊外に位置する。ピジャマパーティに集まったのは女子が5人、男子が息子のみ。息子には必ず状況を、たとえば、駅に今ついた、とか、お父さんお母さんに挨拶をしただとか、事細かに連絡するよう伝えておいたが、あの子の一番の問題は一切連絡をよこさない点。心配する父をよそに、家に戻って来るまで息子からの連絡は結局一度もなかった。
「何で連絡しないの? めっちゃ心配したんだけど」
「ごめん、それどころじゃなかった」
と息子は眠そうな目で言った。
「寝れなかったの?」
「うん」
そういうと息子は子供部屋へ行き、寝てしまった。死んだように寝ているので、一睡もできなかったのだろうということは想像が出来た。

夕食の時間にピジャマパーティのことを息子が話しだした。みんなでレーザーゲームをやって、ご飯をたべ、部屋で盛り上がったのだそうだ。違う学校の面識もない女子たちとどうやって一晩も過ごすことが出来たのか、僕の関心はそこに移った。ちょっとは寝れたの?
「いや、寝ようとしたんだけど、寝かけると、みんなに叩き起こされて、結局、朝まで映画をみたりゲームをやったり、大騒ぎだった。明け方の五時に、大音響の音楽をかけて、ディスコ大会になって・・・」
フランスには日本の渋谷とか新宿のような娯楽の街がない。パリは大人にとっては不夜城だが、未成年の子供たちが夜遊びできる場所はほぼない。成人した若い男女はマレ地区とか10区、11区の飲食街で屯するけど、それにも限界があるので、親が留守をしている時などを利用して、自宅でフェットと呼ばれるパーティをやる。親がいないのでやりたい放題だ。DJまで呼び、窓を開けて、大音量の音楽が通り中に一晩中鳴り響き、警察沙汰になることもしょっちゅうだ。いつか「パパが日本に行ってる間、友達を集めてうちでフェットをやっていいかな」と言い出すかもしれない。「パパがいる時に、パパが主催をしてのフェットならいいよ」と僕は言うつもりだ。ともかく、息子は青春真っ盛りなのである。僕は微笑ましく彼を見守っている。
 

滞仏日記「息子がガールフレンドの家に泊まった」