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滞仏日記「日仏カップル、なぜ女性が日本人ばかりなのであろうの巻」 Posted on 2019/06/16 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、今日は営業ライブをやった。ノートルダムチャリティコンサートの後、「辻さんは、出前ライブやったりしますか?」というお問い合わせがいくつかあり、僕がパリにいてメンバーのスケジュールがあうならばやってみりましょう、ということになったのだ。10月のオーチャードホールでのアニバーサリーコンサートも、フランスのバンドのメンバーを連れていくつもりなので、場数を踏んでおきたいという僕の思惑とも合致して、今日は16区の和風喫茶「山茶花」に出向くことになった。
 

滞仏日記「日仏カップル、なぜ女性が日本人ばかりなのであろうの巻」

長年続けてきたこの山茶花、オーナーのミカさんが体調を崩され、閉店が決まった。そのレストランに集うお客さんたちを集めての感謝祭をやりたいというのでこのライブが決まった。16区周辺に住まれている日仏家族の集いの場だったのであろう、外に溢れるほどの大勢のお客さんが詰めかけ、山茶花の人気のほどが伝わって来た。ミカさんのご主人アントワーヌもそうだけど、そこに集まったすべての日仏カップルは男性がフランス人、女性が日本人というパターンで、その逆はいなかった。この傾向は世界的で、日本の男の人は外国の女性を口説けないのだろうか、日本の女性は外国人にもてるのだろうな、と勘繰ってしまう。年配の日仏カップルは男性が日本人というケースも多少いるのだけど、最近の傾向としては圧倒的に日本人妻が多い。日本の女性たちは日本の男に愛想をつかしてフランスの男たちと恋に落ちるのだろうか? ライブの後、僕は一組のカップルの奥さんに、女性ばかりな日仏カップルの現状についてお話をし、日仏男子の違いについて、インタビューを試みた。

「ということは、日本の男性じゃダメなんですかね?」
「私の場合は、たまたまなんです。彼と出会って、優しかったし、それまで出会った日本の男性とは何かちょっと違っていて、いいな、と思ったの」
「何が、違ったんでしょう。前の彼と、今のご主人の違いって?」
「あくまでも私の場合ですけど、夫は優しい。前の彼はちょっと子供でした。でも、それが他の人にあてはまるとは限りません」
「フランスの男性はどんな風に優しいんですか?」
「人によりますよ。ずるいフランスの男も多いので、気を付けないとならないのだけど、日本や日本の文化をリスペクトしているフランスの男の人は日本の女性との相性もいいと思う。でも、ほら、アジア人の女性はカワイイしもてるし、そこを狙ってくる男性も多いので気を付けないとなりません。フランスの男の人って口説くことが仕事だから」
「フランス人の旦那さんを前に訊きづらいことですけど、若い日本の女性に、フランスの男性の注意点を教えてください」
旦那さんは奥さんの横に座り、遠くをぼんやりと眺めている。
「たぶん、雰囲気でおされて結婚をしてしまい、うまくいかなくなって別れるカップルも多いんですよね。フランス人男性のやさしさって、小さな頃からフェミニズムについて徹底的に叩き込まれているから、そこが素敵とか思いがちなんですけど、別れる時や愛が終わる時はスパッと切れてしまう怖さがあります。女性を心地よくさせる天才ですから、そこは気を付けた方がいい。日本の男の人は不器用ですけど、情に篤いので、どっちがいいかは判断に迷うというか、ご縁です。フランスに憧れてその勢いで口説かれて結婚をしてしまう人が失敗するケースも多いと思うので、まずはフランスの男性をいろいろと知ってから、本当に心が通じあえた人と結ばれるのがいいですね。ここに集まったカップルはみんな知り合いですけど、共通しているのは、相手に求めているものは愛だけ。何人というのは関係ありません」
「ありがとう。ご主人はかっこいいし、優しそうですね」
すると、それまで黙って遠くを見ていたフランス人のご主人が僕を振り返り微笑んで、
「辻さん、僕は妻を一人の女性として愛しているんですよ。それだけのことです」
と流暢な日本語で言った。僕らは同時に大声で笑ってしまうのだった。そして、とても楽しい営業ライブであった。山茶花とミカさん、長年ありがとう。お疲れさまでした。
 

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