JINSEI STORIES

人生は後始末「敵は自分の心の中にいる」 Posted on 2017/06/04 辻 仁成 作家 パリ

 
母が暮らす街のTV番組に生出演しました。映画の宣伝のために。
コメンテーターの人と面識がありました。
いつも笑顔の素敵な方でした。だから、その人がいるというので小生は喜んで出演をしたわけです。
でも、なんだかわかりませんが、笑顔で挨拶をしても低いお辞儀と視線の合わない笑顔が戻ってくるだけ。
でも、鈍感な小生は彼らの真ん中に座り、一人ではしゃいで映画の宣伝をいっぱいして立ち去ることになります。

その夜、母と弟と食事をしました。当然、その日の生放送の話題になりました。
すると母が不意に顔を曇らせ

「あの人はひどいことをたくさん言った。あなたが大変な時にあの町で一番あなたの悪口を、私は母親として…」

そこで思わず話を遮り、「もういい。そこまで!」と言ったのです。
一瞬で、その方のどこか申し訳なさそうな笑顔の理由がわかりました。
司会者の方も元気がなく、…そういうことか。

「母さん、もういいじゃないか。ぼくは何も知らなくてよかったんだよ」
「そんな! 3年前、私がそのことでどれだけ心を…」

今度は弟が遮りました。小生は笑顔で、
「ぼくはあの番組に招かれたし、ちゃんと映画の宣伝もさせていただいた。NGだったら出してもらえない。でも、スタッフさんやテレビ局の方々、なによりその人の気持ちがあって、ぼくは招かれた。これで終わりにしようね」

母は納得しかねるようで、唇を嚙み締めていました。
85歳の母に自分のせいで不愉快な思いをさせた。辛いですね。
でも、これでよかったのです。人生は最後が大事。過去を水に流すことができてはじめて人は大人になる。

番組終了後、遠くにいたその人に手を振りました。
すると彼は近づいてきてくれたので、ライン交換しましょう、と提案。

「わたし、ラインやってないのよ」

そう言い残し、再び俯いてそこを離れて行かれたのです。
元気でいてくださいね、と小生はその時、心の中で思っていました。

今回の再会、彼が何か気がついてくれたらそれでいい。また悪口を言われるなら、ご縁がなかったということです。
狭い町でのことですからね、もめ事はいけません。

手ごわい人生ですが、まるくおさめられたらいいですよね?
 

人生は後始末「敵は自分の心の中にいる」

 
今日の後始末。

「敵を味方にしてこその人生です」