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大学生になる息子へ贈るささやかなことば「今を大事に生きなさい」   Posted on 2022/06/12 辻 仁成 作家 パリ

息子よ。
大学合格、おめでとうございます。
たぶん、父さんは「合格したよ」と言われた瞬間を生涯忘れないでしょう。
それはただの合格の報告ではありませんでした。
二人で生きた長い年月を照らす、素晴らしい光でもありました。

一生というものは人間の数だけありますね。
君にも父さんにもあらゆる人たちにも、一生が与えられています。
でも、これが、なかなか思う通りには生きられません。
人間は、たくさんの後悔を持って生きたりします。

後悔と反省のない一生も、また存在しないわけです。

人が一生を生きはじめる時、誰もが人生の初心者であります。
生きながら、人間は、自分の一生と向き合っています。
そして、失敗や過ちのお陰で軌道修正することができるようになります。
最初から一生を上手に手なずけることのできた人はいません。
大きな失敗の後にはじめて小さな成功がやってきたりもするものだから・・・。
その繰り返しの中で、人は、徐々に失敗しないようになっていく・・・。

なんとなくここはおとなしくしていよう、とか、なんとなくこれは気を付けた方がいいだろう、とか、経験がやがていい教師になってくれるわけです。

そうやって人間は一生を旅していきます。

大学生になる息子へ贈るささやかなことば「今を大事に生きなさい」  




時には冒険をすることもあるでしょう。
人は、失敗を覚悟して、ちょっと荒波に出たりもします。
時には疲れて、長い休暇をとることもあるでしょう。
死にたくなったり、生きたくなったり、人生とは実に忙しい日々の連続です。

君が合格した直後、父さんはちょっとだけ過去を振り返りました。
すると、とっても幸せな時があったことを知りました。
その時はそれが幸せだとは気が付かず、生きていたのです。
今、自分は幸せなんだな、と気が付ける人が幸せなのです。
だから、父さんは君に言いたいことがあります。
今を大事に生きなさい。
この一瞬一瞬を切に生きなさい、と・・・。
その通り、つまり、今日を精一杯生きてください。

後悔はあっても、恨んだり憎んだりすることのない、最終的には穏やかな一生を生ききって終えられたら、それこそ、素晴らしい一生と言えるでしょうね。
辛かったことや悲しかったことを明日に持ち越す必要はありません。
毎日、生まれ変わって、その生涯を慈しんで生きてください。
君を束縛するものは君です。
そして、君を解き放つものも君です。

人は毎日忘れて、人は毎日覚えていく生き物です。
一生の最後の日に、良く生きましたね、と自分に言えるようなそういう一生。
それは、今日を精一杯生きることの中で、わかってくることです。
君は自分の力でこの苦難に打ち勝ち、未来を手に入れることが出来ました。
その未来を希望とよびます。
その希望は君が頑張った結果やってきたギフトなのだから、ここからは思う存分生きたらいいね。
精一杯、楽しんで、この世界を満喫してください。
父さんは、遠くから、微笑んで見守っています。
おめでとう。

 

大学生になる息子へ贈るささやかなことば「今を大事に生きなさい」  

今日も読んでくださり、ありがとうございます。
父ちゃんからのお知らせです。
6月13日は、いよいよ、父ちゃんの日本公演のチケット発売日になります。
8月8日、大阪ビルボード、12日は横浜ビルボード!!!!!!!
NHK・BSの新作「ボンジュール、辻仁成の春ごはん」の本放送は6月17日に迫ってきました。今回も西山義和ディレクターが頑張ったようです。
6月30日はマガジンハウス社から、いよいよ「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」が発売に。
そして、
6月26日に、地球カレッジ、前期エッセイ教室の最終回、総まとめ編です。
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