DS SHOP & BOOKS

ファッションデザイナーが創る包丁 “Nu-E” Posted on 2022/12/04 佐藤 康司 デザイナー パリ

2020年、今から2年前のその年は僕にとっても世界中の人々にとっても忘れられない年となった。コロナ禍により、それから世界の状況は大きく変わっていく事になる。

この年僕は自身のバッグブランドの知名度向上とプロモーションを兼ねてパリと日本で計6回のポップアップストアの開催を予定していて、生まれたばかりのブランドを育てていくために重要な一年になるはずだった。
しかし、予定は全て流れてしまった。
パリでアクセサリーデザインを担当していた大口のブランドの売り上げはロックダウンを受けて半減し、生産工場も閉鎖。結果僕との契約も打ち切りとなる被害を被った。

さらなるロックダウンもはじまり、全く先行きの見えない不安のみが募り気持ちも沈んでいたそんな時、一つの連絡が入った。

ファッションデザイナーが創る包丁 “Nu-E”



「佐藤さん、包丁のデザインしてみませんか?」

以前別件で一度だけお会いした事がある、新しい事が好きなアイディアマンからの連絡だった。ファッションデザインを中心にしてきた畑違いの僕に唐突な依頼だったが、僕は「やります!」と即答していた。

まずは平面でのラフデザイン画を沢山描いた。生地など柔らかさを持つ素材を人が纏うことを前提に考える服のデザインと異なり、プロダクトデザインは硬質な素材で表現する物が多く、そのモノ自体に機能性が備わっていなければならない。

ファッションデザイナーが創る包丁 “Nu-E”

地球カレッジ

初めてのプロダクトデザイン。様々なライセンスアイテムのデザインを担当してきた事が本当に役に立ったと思う。
イラストレータとフォトショップで実寸サイズの平面デザイン画は何とか描けたが、問題だったのは日本の工場に直接行って細かい仕様を説明、修正できない事だ。
そこで出来る限りイメージが伝わるように、映画などで特殊な人形やフィギュアを作っている友人に紹介してもらった粘土を何種類も買ってきて練って焼いて削ってをひたすら繰り返しモックと呼ばれる試作品作りを続けた。
やっと表現したいモックが出来て更に友人のシェフ達にアドバイスをもらい、完成したものを日本に送ったものの、コロナ禍の折、家庭で料理をする人達の包丁需要が増え、生産ラインの空きがないという問題にぶつかった。苦労してやっと見つかった工場でも「ハンドル部分の造形が複雑で実現は出来ない」という返事でなかなか事は進まなかったのだ。

日本側の尽力で「包丁作りで有名な岐阜県関市の工場が作ってくれる事になりました!」と連絡が来たのはデザインを始めてからすでに一年ちょっと経った頃だ。
モックの3Dスキャンをして微調整を繰り返し、試行錯誤し、更に職人さん達が力を注いでくれた渾身のサンプルが出来上がったのは更に数ヶ月後だった。

ファッションデザイナーが創る包丁 “Nu-E”



実際の包丁を目にして触れた時はなんとも言えないワクワク感と嬉しさが溢れて来た。使って料理をしたら尚更だ。この感覚はものづくりをしていて一番の醍醐味だと思う。
2年を費やしたフランス生まれ、日本育ちの包丁を通してこの感覚が多くの人に伝わると嬉しい。

コロナ禍で世界は一変し失ったものは沢山あるけれど、そんな世界で新しく生まれてくるものもある。
ファッションデザイン生活20年目にして初めてのプロダクトデザインへの挑戦。自分の人生における仕事と情熱は常に新たな挑戦から生まれるものなんだ、と再認識させられた。今回失敗を恐れず企画、協力してくださった人達への感謝を忘れずに、これからも様々な世界へと挑戦していこうと心に決めた。

サイト
https://lp.nu-e.jp

インスタグラム
https://instagram.com/chefsknife_nue?igshid=YmMyMTA2M2Y=

ファッションデザイナーが創る包丁 “Nu-E”

自分流×帝京大学