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先生に贈るクリスマスギフト、気になるその相場は? Posted on 2021/12/14 中村 ユキ 現代アーティスト ロンドン

12月に入ると、容赦なく、いろんな団体から寄付金や募金の案内が手紙、メール、テキストで届く。
学校も例外ではなくクラスの代表者から「先生やスタッフへ贈るクリスマスギフトの寄付金」を促すテキストが送られてくる。
最初に思い浮かんだのは、「先生にギフトを渡すものなのか」、次に「いくら寄付すればいいのか」だった。

コロナ禍のロックダウンや規制で学校に通うことが物理的難しくなった。
息子はバスや電車を乗り継いで片道1時間かけて通っていた小学校から歩いて通える小学校に転校することができた。

学校が変わればギフト事情も違う。早速、市場調査で何人かのママ友、パパ友に聞いて回った。
古参のイタリア人ママは40ポンド、前の学校でも一緒だったノルウェー人パパは20ポンド、タイ人ママは子供1人につき25ポンド。
学校以外で聞いたところ、私立に通わせる日本人ママは50ポンド、ブラジリアン柔術で一緒のインターに通わせる日本人アメリカ人ママは30ポンド、サッカーで知り合ったイタリアンジャマイカ人ママは個人でチョコレートと花を贈る、と教えてくれた。
少なくて20、多くて50ポンドが相場だろうと目星をつけた。

先生に贈るクリスマスギフト、気になるその相場は?

<2年ぶりに開催されたクリスマスパーティーのステージ>
地球カレッジ



クラスの代表の銀行口座へアプリを使って好きな金額を送金して終わり。
あとは代表がギフトカードを購入し、バスケットに食料品や飲み物を詰めたハンパーとカードを担任の先生と、補助の先生に渡す。
個別に先生やスタッフにクリスマスギフトを用意する労力と時間を考えれば、楽で寄付金額も少なくて済む。

昨年はロックダウンで学校が半年以上休校となり、学校が再開してもクラスに何人かコロナ感染者が出たので濃厚接触者として何週間も自宅で自主隔離となった。
放課後のクラブが廃止になり、金曜日が半日授業になった。
ロックダウン中の息子の通う小学校では先生によるオンライン授業は1日30分あるかないかで、グーグルクラスルームにログインして先生から送られてくる課題(リンク先が貼られているだけ)をこなす学習スタイルが続いた。
誰のせいでもないけれど、この理不尽なオンライン学習は子供にとっても親にとっても、想像を絶する戦いであった。
オンライン授業を全教科提供することができない学校や先生を憎らしくも思ったが、親が勉強を教えるのがどれほど困難なことか、思い知った2年間であった。

先生へのクリスマスギフトは英国の慣習なので、そのような状況の中でも例年通り、集金があった。
1クラス30人で1,140ポンド(17万円)の寄付が集まったことに、驚愕した。
1人あたり38ポンド(5,700円)寄付した計算になる。
先生と補助の先生が2人いるので、80%を先生達に、残りをスタッフへギフトカードを贈ったと、報告があった。
前の学校ではクラス内の有志によって200ポンド(3万円)集まるぐらいだったので、この数字には驚いた。

ギフトの慣習はクリスマス時期だけではなく、学期末のサマーギフトもある。
そして、学期末のサマーギフトの時期、P T Aのミーティングでギフトの不平等性が議題にあがった。
今までのギフトの集め方だと、先生の間でギフトが不平等に分配され、先生以外のスタッフ(先生補助、体育の先生、受付、給食係など)がギフトをもらえないという事態になってしまう。これを避けるために、ミーティングでは学校の集金システムを使って寄付を集め、全スタッフに平等に分配することを決定した。

先生に贈るクリスマスギフト、気になるその相場は?

<親が焼いてきたスイーツ>



ところが、学校菜園のある屋上テラスで、クラスの親同士の和気藹々としたコーヒーミーティングが行われた際、この「平等に等分」の決定に反対する英国人ママが現れた。
彼女は「先生はより多くの責任があるからより多くのギフトをもらうべきよ」と言った。
すると、たまたま同じクラスにいるP T A 会長のスウェーデン人ママが、「スタッフは先生に比べて給料も少なく、雇用だって不安定だから、先生と同等のギフトを渡すべきよ」と反論した。
スウェーデン人の彼女は4人子供がいて、上の3人の子供もこの小学校に通って、長年P T A会長を務めてきた、パワフルママさん。
新参の私は発言するのもはばかれ、P T A 会長に賛成した。
喧嘩腰のやりとりが続く中、コーヒーを飲んでおしゃべりをしにきたママたちはお互い顔を見合わせた。

P T Aで平等に分けると決まったサマーギフトだが、集まった金額は予想を上回る11,303ポンド(約170万円)。
さすがに公立小学校としては多すぎる金額ではなかろうか。
全生徒数が389人、一人当たり29ポンド(約4,400円)の寄付となった。78名の先生とスタッフで等分して一人当たり140ポンド(約21,000円)のギフトカードを贈る事になった。

先生に贈るクリスマスギフト、気になるその相場は?

<BBQとサラダバー。ビールもある>



クリスマスギフト、サマーギフト以外にも、昨年はクラスの担任の先生が妊娠したので出産祝いを臨時に収集した。
同じ学校に子供が通うイタリア人ママが「ギフトは親のエゴと見栄も入っている。寄付金額で親同士が競い合っているのよ。学校のための資金集めにいろんなファンドレイジングがあるから、いくら寄付してもキリがない。覚悟した方がいいわよ。お金、吸い取られるから」と忠告してくれた。
調べてみると、2019年から2020年の間に130,000ポンド(2千万円)の資金が集められ、2021−2022年の予算は先生補助(クラスに2人)、体育、美術、音楽の特別講師を雇うために使うとあった。
逆に言うと、英政府は公立小学校にこれらの先生を雇う予算がないということだ。

親主導で学校を支援する資金調達「ファウンドレイジング」の度肝を抜くユニークな手法はまた別の機会に書くとして、さて、今年のクリスマスはいくら寄付しようか、迷うところだ。

*12月10日現在 1ポンド=151円

先生に贈るクリスマスギフト、気になるその相場は?

<くじ引きであたるハンパー>
自分流×帝京大学



Posted by 中村 ユキ

中村 ユキ

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Yuki Nakamura
ロンドン在住の現代アーティスト。香川県出身。女子美術大学卒業。ワシントン大学大学院芸術学部セラミックス科卒業後、シアトルを活動拠点に制作活動を23年間続ける。2017年にロンドンに家族と移住。サイト・スペシフィック・インスタレーション、コラボレーション、パーフォーマンス、パブリック・アートを制作。ポロック・クラズナー財団(ニューヨーク)、アーティスト・トラスト(シアトル)から助成金を受賞。マイクロソフト、スェーデン癌研究所、シアトル・シティ・ライトに作品が収蔵。2013年以来、ニューヨークを拠点に結成されたアーティスト・コレクティブ、ART BEASTIESのメンバーとして数々の展覧会やプロジェクトを企画。主な展示はコーニッシュ芸術大学のアーツ・インキュベーター・レジデンシー(シアトル)、兵庫県立美術館、東京都美術館、ソイルギャラリー(シアトル)など。現在、パブリック・アートとしてマイクロソフトの本拠地であるレッドモンドに建設中である、ライトレールの駅に設置されるアートベンチ(GFRC:ガラス繊維強化コンクリート)を13個、制作中。2023年に完成予定。小学生と中学生の男の子を子育て中。