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愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」 Posted on 2022/05/28 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

 
花盛りの季節になってきたが、田園地帯を運転していたら、突然、鮮やかな赤い花畑が眼下に広がった。
あまりの美しさに息をのみ、思わず車を止めて写真を撮った。
よく見ると、赤い花に紛れて、ところどころに青い花も混ざっている。
 



愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

 
赤い花はコクリコ、青い花はブルエといい、日本語でヒナゲシと矢車草だ。
今が季節で、パリを離れて郊外にでると、この2つの花が仲良く咲いている風景に出会う。
どちらもフランス人に人気の花だが、生花店では売っていない。
田園地帯に自生し、切り花にすると長くは持たない儚さ。
どちらも、食器や日用雑貨の柄としても人気だ。
蚤の市のアンティーク品は、他の柄よりも少し値段が高く設定されていることも。
コクリコとブルエは、なぜフランス人を惹きつけるのか。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

 
身近な友人や、同僚何人かに聞いてみると、いくつか答えが返ってきた。
「コクリコという名前の響きがニワトリの鳴き声に似ているから」という説。
ニワトリはフランスを象徴する鳥で、自国に誇りを持つ人は、ニワトリ柄が入ったものを気に入って使っていたりする。
サッカーのフランス代表のマークもニワトリなので、その感覚は若い人にも浸透している。
そんな好きなものに似ているから好き、という説。
また、コクリコとてんとう虫を一緒に見ることができたらラッキーという、四葉のクローバー的なジンクスもあるそうだ。
ブルエは、マリー・アントワネットのお気に入りの花で、彼女が注文した食器類にも図案として使われている。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

※Bernardaud社のブルエモチーフのマリー・アントワネットコレクション

地球カレッジ



 
「特に理由はわからないけれど、どちらも昔からあるものだし、シャンペット(champêtre:田舎風)で良いよね」と、数人が盛り上がった。
田舎風であることが何で良いのか? と更に聞くと、「広々とした空間や、ゆったりと流れる時間を想像させて、素敵じゃない? バカンスを連想させるのよね」と、パリジェンヌの友達のひとり。
そういえば、画家のクロード・モネも、田園の空気を魅力的に描いていて人気だ。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

※クロード・モネ、1873年の作品「レ・コクリコ(Les Coquelicots)」

 
深掘りして調べると、実はコクリコは、19世紀初めのナポレオンの時代から、戦争を表す花であった。
血で染まり、焼け野原となった戦地が、その後、真っ赤な花で覆われる現象は不思議がられた。
戦後の荒廃した土地でも生えるのは、種が何年も土の中にとどまり、どんな悪条件でも発芽できるという生命力の強さだ。
第一次世界大戦中、カナダ人医師ジョン・マクレーが、戦死者が眠る墓標の周りに生えるコクリコについて書いた「フランダースの野に」という詩がある。
イギリスでは、第一次世界大戦終戦日の11月11日を「リメンブランス・デー(Remembrance Day)」とし、この詩をきっかけにコクリコの花が記念日の象徴となった。
英国在郷軍人会に募金をすると、赤いコクリコ(ポピー)のブローチをもらえるが、戦没者追悼式では英国王室のメンバーも身に付けている。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

※イギリスのリメンブランス・ポピー



 
そしてフランスでは、ブルエが戦没者追悼の象徴だ。
団結を意味し、「ブルー・ホリゾン(bleu horizon)」と呼ばれるグレーイッシュな水色の制服を着た若い兵士のことも、ブルエと呼ぶ。
イギリス同様、「ブルエ・ド・フランス(Bleuet de France)」という基金があり、ブルエのブローチの販売を行っている。
始まりは、1925年に2人の女性、アンヴァリッド国立美術館館長の娘であるシャルロット・メルテールと、看護師のスザンヌ・レナートが、布でブルエのブローチを作って売ったのが始まりとされている。
今、公式サイトをみると、イギリスの統一されたブローチと比べて、バリエーションがある。パリで人気の刺繍ブローチブランド「Macon & Lesquoy」がいくつもデザインしているのは、さすがフランス。軍とファッションが繋がるのは少し不思議な気もするが、そもそも、こちらのブランドは、軍服の飾りや勲章に使われる刺繍技法を使っているので納得だ。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

※ブルエ・ド・フランスのブローチは種類が豊富、下段3点が「Macon & Lesquoy」

 
さて、冒頭の花畑の写真を同僚に見せたところ、「トリコロール(フランス国旗)の元になった花たちね!」という。赤はコクリコ、青はブルエだが、もうひとつの花を見落としていた。
控えめな白いマーガレットだ。
赤と青ばかりに目が引かれていたが、改めてみると、写真には3つの花が収まっていた。
田園地帯の自生する花畑を切り取った色が、フランス国旗になったという素朴さ。
トリコロールはフランス人の遠い日の記憶に訴えるものなのかもしれない。
 

愛すべきフランス・デザイン「田園地帯で満開のコクリコとブルエが愛される秘密」

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。