PANORAMA STORIES
大阪万博の思い出と永遠者であるぼく Posted on 2025/06/11 辻 仁成 作家 パリ
1970年、ぼくは大阪万博の会場にいた。
そこで、動く歩道、にのった、というか、その上を歩いた?
ものすごい衝撃を覚えた。
未来は、こういうものが、そこら中にあって、人間はもっともっと楽ちんになるのだ、と思うと、笑いが込み上げてきた。
凄い未来が半世紀後には、この世界にやってくるのだ、と胸が高鳴ったことを、覚えている。
そうだ、ぼくらには輝かしい科学の未来しかなかった。
1970年、ぼくは11歳だった。
パビリオンと呼ばれる世界各国の建物の前は長蛇の列で、アメリカ館に入るのに、5時間待ちみたいな状態だった。
☆
でも、そこには未来があり、鉄腕アトムのようなロボットが普通に存在する21世紀がそこには無限に広がっているのだ、と想像することが出来た。
それから、時が流れ、今年は、再び大阪で、万国博覧会が開催されている。
知り合いが行ったそうだが、どこのパビリオンも長蛇の列で、なかなか入れないのだそうだ。
「でもね、辻さん、そこにある未来は、もう、誰もが知っている未来だったんですよ」
という意見に、再び衝撃を覚えた。
ぼくが1970年に見た大阪万博とは未来の姿が異なっていたのである。
この半世紀ほどのあいだに、人類に何があったのであろう。
ぼくらはどのような輝かしい未来を持っているのだろうか?
戦争、飢餓、地球温暖化、分断、・・・世界人口は82億人を突破しており、もう、地球は狭くなりすぎた。
ぼくは現在、パリを拠点に活動をしている。
エッフェル塔のすぐ近くに住んでいるが、ぼくが愛犬と見上げるエッフェル塔は、1900年の第5回パリ万博に間に合わせるように、完成している。
1900年に、ぼくが見て毎日驚いているエッフェル塔がすでにパリ中心部には聳え立っていた、というのだから、凄い。
その当時、すでに、歩く歩道がエッフェル塔のすぐそばに設置され、パリの人々に輝かしい未来を想像させていたのである。
考えてみてほしい、それは125年も前のことなのだ。
125年も前のこと!!!
☆
ぼくが書いた小説「永遠者」は、1899年末、万国博覧会開催を目前にしたパリから、物語がスタートする。
若き日本人外交官のコウヤは、ダンスホールで美しい踊り子カミーユと出会い、恋に落ちる。
心も体もカミーユに囚われ、時間を忘れて互いを貪り合う日々が続く。
「結婚をしたい」というコウヤに、「〈儀式〉を通過すれば貴方は永遠に私を愛することができるのよ」と、カミーユは囁く。
恋愛小説のような始まりだけれど、物語は、21世紀、2004年頃まで、100年を超えて繰り広げられることになる。
なぜ?
1900年のパリ万博は経験できなかったが、在仏歴23年になるぼくはいつもエッフェル塔を見上げて創作し続けてきた。
この「永遠者」もエッフェル塔を眺めながら、書いた。
ご存じのように、その後のぼくはジェットコースターのような人生を生きることになった。
1970年に大阪万博を経験している。
そして、2025年、再び、大阪で万博が開催されているのだ。
ぼくはこれから日本に渡り、東京と岡山で個展を開催するのだけれど、なんとしても、大阪に立ち寄るつもりでいる。
出来うることならこの目で、二度の大阪万博を経験してみたい、と思っている。
そこに、もしかすると、カミーユがいるかもしれないからだ。
1900年にコウヤとカミーユが出会った。そして、1970年の大阪万博で、カミーユは踊ったのだ。
もしかすると、カミーユは2025年の大阪にも出現するかもしれない。
この「永遠者」はぼくにとって、第一部、壮大な世界の物語の第一部として書かれた作品でもあった。
第二部の執筆が遅々として進まないので、2025年の大阪万博で刺激を得たいと考えている。
カミーユとコウヤの愛憎劇はぼくの中で、まだまだ、続いているのである。
終わらない永遠を生きるものたちの物語・・・。
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展覧会のお知らせ。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。
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Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。