PANORAMA STORIES
日本旅日記。90歳の母を連れてオーベルジュ「御宿」に行く Posted on 2025/07/28 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
90歳になった母親を連れて、佐賀県の鹿島にあるオーベルジュ「御宿」(おんやど)さんに、親孝行のために、行ってまいりました。
ここは名酒「鍋島」がやっている宿で、鹿島の中でも、歴史的建造物が居並ぶ、重要伝統建築群に指定された浜町のただなかにあります。
この一帯は歴史があり、金沢とか京都の風情があるんですね。
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静かで、とっても落ち着く世界です。
外国の方も、遠いからでしょうか、お見掛けしてません。
そっとしておきたい場所ですが、笑、ちょっとだけ、ご紹介させてください。
あまりにも素敵だったので、リピート間違いありませんね。
90歳の母は、大喜びでございました。
何より、光が美しい世界でした。
縁側に差す、7月の光が、まるで木版画のような・・・。
母さんは、90歳ですが、まだまだ、元気で、杖もつかず、どこまでも一人で歩いていきます。
その後ろを、息子であるぼくはついていきます。
「御宿」は本館にあたり、他に、「ふく」など別館が3棟ありますが、それぞれに独立した建物と世界観を保有しています。
他のお客さんと出会うことがありません。
貸し切りなんですね。(食事の時に、外からのお客様と一緒の場合もあるようです)
※ 御宿のお嬢様がじきじき、館内をご案内してくださいました。とにかく、光が美しい。ちなみにここはお風呂です。母さんは、ここでお風呂に入るとね、すごかね、と驚いていました。親孝行出来たかな・・・。笑。
古民家を改築し、建築賞などもたくさん、持っている宿で、やはり、日本酒の「鍋島」がやっているだけあって、隣に、大きな酒蔵があり、そこの見学も希望者はできるわけで、楽しかったです。
酒蔵の主人でもある飯盛さんが、日本酒の作り方などを丁寧に説明してくださりますので、酒蔵ツアーというのでしょうか、これが、また大変に面白く、そして、勉強になりました。
それから、ここの「御宿」には、なぜか、ぼくの絵がかなり展示されているんですよ。
ぼくの絵が好きな皆さんには、プライベート美術館のような感じで、楽しむこともできるかもしれません。
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ぼくも自分の古い作品(分身)に出会えるので、懐かしく、ありがたく、幸せな気分になりました。
いつか、ここの別邸(御宿から歩いて7分)に滞在させて頂き、作品作りをしたいと思っています。
母さんも、生きている限り、連れてきてほしい、と・・・。
ですよね、もちろんです。
福岡空港から、車で2時間くらいでしょうかねー。
食事処の奥に、懐かしい「金の扉」絵の一つを見つけました。
酒蔵の中に、60号の大作が展示されています。見上げる、本人・・・。笑。
宿の縁側廊下の角などに、ぽつんと、辻画人の作品が、配置されていて、わ、わ、わ・・・。
もちろん、ぼくの作品だけではなく、陶芸、日本画など、芸術に囲まれた御宿でございます。
しかし、料理がとても素晴らしい。
鍋島との全ペアリングで味わう、日本食は地元の食材を上手につかった、極上の和食でございました。
どの料理も、シェフの愛情と技術がつまった傑作ばかり、その料理と個性豊かな「鍋島」が見事にマッチしておりました。
一宿一客人という贅沢さ、12食、12酒を、完食させて頂きました。
天草、五和の赤ウニだそうで、この時期だけの非常に珍しいウニです。
最後のお食事は、これです。万願寺とじゃこの炊き込み。
やばかったですよ、こっそりと申し上げておきます。料理長の西村卓馬さん、実に、腕のある方です。
弟が母の面倒をみてくれています。
別邸の「ふく」に飾られているぼくの絵なんですが、この額装が素晴らしく、大川市の額装屋、内藤さんに、感謝です。
来年も、そうですね、個展のタイミングなどにあわせて、再び、訊ねてみたいな、と思いました。
失礼いたします。
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「Le Visiteur」展、
現在、岡山で個展開催中です。新作37点展示。
岡山、本日、28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。
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そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
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Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。