PANORAMA STORIES
滞仏日記「青春の末期」 Posted on 2025/08/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、悪友の呑もちゃんこと、国虎屋の野本氏に「呑もう」と誘われたので、パリの事務所で落ち合った。
とことん、呑むぞ、とパリを目指した父ちゃんであった。
実は、俺たち同世代なので、残りの人生何をやるか、で最近、大いに盛り上がっている。
父ちゃんも料理が好きなので、いつか、小さなカウンターだけのキッチン居酒屋をフランスに出して、野本とキッチンに立ちたい、と思っているのだ。(ただ、思っているだけ)
で、こうやって集まっては、作戦会議を繰り返している。
男の子はいくつになっても作戦会議好き、作戦会議が実に楽しいのである。
ぼくはもうすぐ在仏歴25年、野本なんか40年くらいじゃないか、すごいね。
ここらで一花咲かせてやろうぜ、と計画をたてているのだけれど、人生残り少ないからこそ、やりがいがある。
「なんか出来るだろ、まだ、これからだ」
とぼくは野本を炊きつける。
「いいねー。何やる?」
それが何か、誰もわからないのだけれど、・・・。
☆
野本と気が合うのは、何歳になっても、人生を諦めないところである。
そういう連中が最近、集まって、「日本パワーさく裂させてやろうじゃなか」と大騒ぎしているのだ。
でも、そうやって騒いで、酒をあおっているだけ、なんだけれど、うふふ・・・。
ま、楽しい。
いつまでも、終わらない青春、いいね。
青春の末期にいる、俺たち。
気が付いたら還暦もかなり過ぎてしまった二人だが、気持ちだけはまだ若いし、終わるという感じがしないのである。
「おもしろき、こともなきよを おもしろく」
とは長州藩・高杉晋作のことばだが、要は、面白みもないこの世の中だけれど、自分はこの世界を楽しんで生きてやる、というメッセージが込められていて、これは、俺と野本の合言葉みたいになっている。
野本は高地出身なので、坂本龍馬が好きで、新・龍馬会を結成したいのだ。
いいねいいね、と賛同したんだけれど、実現はしていない。
もっとも、実現なんかしなくてもいい。
やろうやろうと盛り上がることがまずは、大事だということ。
だって、こんなにつまらない世の中なのだから、せっかく生きたわけだし、とことん、生き切ってやりたいじゃないか。
「なんかやったろうぜ。みんなを楽しくさせてやろう」
「いいね、いいね、やるか」
ということで、
「まずは、読者にむけてなんか面白い顔をしてみてくれ」
とお願いしたら、今日は、こんなサービス、最高です。
この若さ、最高だな。あはは。坂本龍馬に見えてきた。
ぼくらが食べたのは、辛い焼き豚、であった。サムギョプサルみたいなものだけれど、和風の味付け。うまい!
すみなすものは、心なりけり。
☆
ということで、芸術の秋だからこその、個展情報!!!
野本も来ます、準備万端です。
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
だいたい、午後の14時から、18時くらいまで開画廊いたします。みんな長く働かないので、午後、お越しください。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23~24点の渾身作で行くよ。笑。
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辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。近日中に、再び更新をする予定です。
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Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。