PANORAMA STORIES

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!) Posted on 2025/10/15 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
今日は久しぶりにゆっくり起きれたから小説書いて予約配信(連載小説「泡」)してから地下鉄乗って、画廊に向かいました。
マレ地区の今や父ちゃんの巡礼地の一つになりかけているカレー屋ポントシューで唐揚げカレー食べ、出勤。笑。
今日はスタッフさんたちみんなお子さんたちとのランチ会があるため、画廊を開ける役目!となりました。そんなこともあるのです。
かなり、重たい扉を開けると光が画廊内に満ちて絵が光り輝きだしました。
うわ、静寂の画廊、素敵~。♪
お掃除をして、片づけをして、絵のチェックをして、・・・よっこらしょ。

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)


オープンと同時にお客さんが入り始めました。
通常、地下のオフィスで待機しているんだけど、一階の声がダクトを伝って直に聞こえてきます。笑。
でかい空気孔があるから、実は、筒抜けなんです。

「この赤い点はなんなの?」
「なんか人間の芯を表してるらしいわよ」
「へー」
「タイトルないからよくわからないけれど、なんかこの人の絵って人間の苦難から飛び立つみたいなことじゃないかしら。ほらこの岩山から飛び立つ鳥か魚か花かわからないけれど、ねー」
「暗いけれど希望感じる不思議な絵よね」
「へー」
エトセトラ・エトセトラ・・・。

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)



父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)

本人が聞いてるとはわからないから、いろいろ本音が聞け、大変勉強になりました。
それからフランス語も、英語も、何語かわからない言語なんかも、囁くように聞こえてきて、なるほどーの連続。
英国訛りの英語を話す、やはり、若いカップルさんたち、作風について話されています。
「この人の絵は、不思議なものがあるね」
「そうね、日本のアーティストみたいね」

若い声、どんな人たちか想像するのも楽しみの一つです。
それにしても、一年もかかってコツコツ描いてきた作品が、誰かに見初められ貰われていくの、嬉しいのに、寂しいですね。
「子供のように大切にしますから」と言ってくださる方もいました。

時間が経つとだんだんお客さんが増えてきます。
日本人はやはり多いですが、通りかかったフランス人や外国の観光客さんらがふらっと入ってきて絵を買っていかれたりするのもやはりマレ地区だからこそでしょうね。

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)



しかし、だんだん時間が経つにつれ日本語の雑談が、まるで井戸端会議みたいに大きくなってきました。
えええ、なんだ? 
かなり、騒がしいじゃないか、どうした?
様子を見るため、裏口から回り込んで表玄関へと向かうと、フランス人のおじさまが中の様子を伺いながら、入れない感じで佇んでいます。
・・・困惑気味。
覗くと、日本からやってきたファンの方々が、入り口付近を占拠し、7,8人がダマになって話し込んでいるじゃあーりませんか!
それも、ヒソヒソ話じゃなく、大きな声で。しかも、絵に全然関係ない感じの内容、え、え、え、なんだ?
なんでここで井戸端会議してる? 
不意に怒りに震えだす父ちゃんでした。外にいたフランス人が、結局、中に入らず、出て行かれました。
あああああああああ、どこ行くだ!
なんと、自分の大事な個展が、、、こんな場所で井戸端会議されて、ぶち壊されていくー。泣。
あなた方、個展を壊しにきたのか! 
一年かけて描いてきた絵が激しく悲しく哀れに思い、思わず、その方々へ向かって「ここは溜まり場じゃないよ、話すならカフェとか他所で話してよ」と怒りに震えて声が飛び出してしまったのです。
日本からせっかく来てくださったわけですが、しかし、我慢できませんよね、父ちゃんの気持ちはさく裂したのです。
父ちゃんが一生懸命、頑張ってやってきたことへの冒涜にしか思えず、悲しくなりました。めっちゃ、悲しかった。
ちょっと真剣に考えてくださいまし。
必死で走ってるマラソンランナーに砂をかけるような行為なんですよ。
異国で頑張っているのに、なんで、つぶしに来たんですか、・・・。
マナーやルールが分からない方にはご遠慮いただきたいです。
ぼくの怒りは収まらず、その後、スタッフたちにまで、当たり散らしてしまいました。スタッフもあいだに入って言えないわけでよ、顔見知りだし、・・・だから、そこがまた腹立つわけですよ。
この気持ち、誰にもわからないでしょうね。
物を作る人間の気持ちなんか、わからんやろなーーー。ぷんぷん。

やれやれ、ぼくはその後、近くのバーに行きやけ酒を呑んだ、という次第です。
どうぞ、ぼくの人生の大事な場面に、泥を塗らないでくださいませ。画廊や美術館は、騒ぐ場所じゃありません。
申し訳ございませんが、ここは、静寂と考察の場所です。
創作にリスペクトできない方々は、もう、来なくて結構でございます。マジで、言うております。
ビデオをこっそりとる人も、注意しましたが、場所を弁えてください。
以上です。明日の個展が、静かであるように、願いますね。

皆様の人生が、良い日でありますように。

  
※本作品の無断使用・転載は法律で固く禁じられています。

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)



辻仁成、個展情報。

10月26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」現在開催中です。
住所、20 rue de THORIGNY 75003 PAROS
地下鉄8番線にゆられ、画廊のある駅、サンセバスチャン・フォアッサー駅から徒歩5分。
全32点展示。残り数点になりました。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)

辻仁成 Art Gallery

父ちゃん、パリ個展日記(怒り爆発の二日目!)

自分流×帝京大学
TSUJI VILLE



Posted by 辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。