PANORAMA STORIES
小説家の溜息(連載小説の途中経過について作家は語る) Posted on 2025/11/12 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
連載小説「泡」第三部が終わりましたね。
ここまでのご愛読ありがとうございます。
このあと、第四部、たぶん、最終章になると思うのですが、まだ、本人にもわかりません。
ライブで連載をやったらどうなるのか、と思い立ち、2025年9月10日に、第一部「地上」の第一回を本誌デザインストーリーズにアップさせてもらいましたが、あれから2か月が経ちました。
作家として、自分どうなのよ、という思いがずっとあったので、なんかやってやろうと思いたち、その三日後から、このライブ連載がスタートしています。
毎回、どうなるか、わからない状態で、要は行き当たりばったり、しかも、無料ですからね、・・・。
「辻仁成、課金でやればいいのに」という意見がどっかで記事になっていましたが、そうじゃないな、と思ったんです。
自分を試したくてやっていることなのに、お金を貰うと、この自由度がなくなるので、いずれ作品になることがあれば、本を売ればいい、くらいの気持ちでやりはじめました。
日曜日は休むスタイルで、ほぼ毎日書いています。そして、第三部、ついに、完了してしまいました。
設計図とかないので、マジで、毎日、先が読めず、即興演奏のようなトランス状態で書いています。
こういうライブ連日連載って、やったことないので、ものすごく気を付けていることがあります。
まずは「矛盾」を作らないようにするのがとっても大変だし、「予定調和」にならないことも大事だし、「冒険心」を失くさないよう心がけつつも、毎回、読者が次どうなるか気にさせる、「ドキドキハラハラ」感も大切で、とにかく、毎朝、起きるとこの緊張感で、震え続けているわけです。(現在、小説が午前中の仕事、絵を午後の仕事とわけています)

© hitonari tsuji
※ 挿画はぼくの未発表の絵画の一部を切り取っています。この絵とか、大きな作品なんですが、アカリちゃんのような印象の絵なので、タキモト画伯が描いていたアカリっぽいのかな、・・・。
でも、すごく反響はあって、といっても、ぼくの周辺だけなんですが、今日は、とある演劇関係者さんから「泡」の舞台化の話も頂いています。もっとも、どうなるかわからないお話なんですが、それでも、嬉しかったです。
しゅうとアカリを演じられる若い俳優がいるのか、という問題や、劇場はどこになるのか、など、こちらも難題だらけなので、宿題として、お互い持って帰る感じで終わりましたが、実現したら、すごいですね~。
そして、漫画化したいという元編集者の方もいることは前にも話した通りで、これも、どうなるかわかりませんが、そんな風に、期待感というのはぼくの周囲でじわじわと膨れ上がっています。
出版化は、まだ何も決まっていません。読んでくれている編集者さんは数名いらっしゃいますが、どうしても、うちで、というところで出したいので、まったく、未定です。熱意待っております。
☆
で、気になる今後なんですが、ここまでの第一部「地上」第二部「夢幻泡影」第三部「鏡花水月」ときたので、第四部の構想をちょっとだけ、練るために、今週末まで時間をもらおうと思っています。
第四部を、第一巻の最終章にしたいと思うのは、単行本化をするのに、これ以上長くなると、どこも出版が出来なくなる可能性があるためで、ここで終わるかもしれないし、いつか第二巻がスタートするかもしれない、という線引きのための、完結部を書きたいな、と思っている次第です。
つまり、どうやって、読者が納得をし、おおおお、と唸る最後へと着地できるか、が問われる第四部になる、予定です。ライブ感、いいですね。
まだ、なんにも考えていません。
その考えていない、が、ここまで書かせてきた原動力の一つでした。
25歳のしゅう、21歳のアカリを、66歳の作家が生み出し、首都中心部を暴走させているところが、おもろい、と個人的に思うのであります。
頭の中には、しゅう君とアカリちゃんが、生きています。これも、ものすごく、ユニークなことです。

© hitonari tsuji
ただ、当たり前の大団円にはしたくない、という決意はあります。
読者を崖から突き落とすことも出来るし、読者を天国へと連れていくことも出来ます。どちらにするか、今はものすごく悩んでいますが、腕の見せ所、かもしれませんね。
作家である、自分の生き様を問うような、ラストを描き切りたいと思っています。
えいえいおーの精神で、まもなく、第四部がスタートします。
いましばらく、開演をお待ちください。この間も、作家はずっと考えているわけです。ここからが、本当の勝負になると思っています。
では、えいえいおー。
☆
連載小説をここで頭から読みたい読者の皆さんにお知らせですが、デザインストーリーズの連載小説コーナーに入り、下のアーカイブ(Archives >>>)のところをクリックして、一番最初のところまでさかのぼるしかありません。そうすると、第1回に遡ることが出来ますよ。

© hitonari tsuji

辻仁成の展覧会情報ですが、
2026年、1月15日から、パリ、日動画廊、グループ展に参加。
2026年、11月には、リヨン市で個展が決まりそうです。版画なども出す予定。情報解禁になったら、まっさきにお知らせいたしますので、リヨン周辺在住の皆さま、お楽しみに。
2026年、夏に日本でも個展を開催する予定ですので、8月前半、スケジュールあけておいてくださいまし。えへへ。
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



