PANORAMA STORIES
父ちゃん文学館、「海峡の光」 Posted on 2026/01/03 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
父ちゃんの代表作ってマジでどれか、決めきれないですよね。多作だし、どの作品も世界観が異なるので、これです、と言い切れない何かがあります。
でも、自分の中で、文学のようなものを獲得した瞬間に紡がれた作品というならば、この「海峡の光」ということになるのでしょうか。
1996年、平成8年に文芸誌「新潮」12月号に発表された本作は、翌年、前期の芥川賞を受賞しました。その前に「母なる凪と父なる時化」で芥川賞の候補、その次の「音の地図(現・東京デシベル)」で三島由紀夫賞の候補になって、よっしゃーと気合を入れて書いた作品が「海峡の光」でした。
いきなり、芥川賞じゃなかったんです。でも、芥川賞って、当時は「新潮」「文学界」「群像」のどれかに掲載されないと候補にもなれない奇妙な時代でした。新潮社に原稿を持っていき、編集長に直談判をした記憶があります。坂本編集長が気に入ってくださり、3作品を通して、いい経験をさせてもらいました。
「海峡の光」が印刷所に入る直前の深夜まで新潮社の小部屋で原稿の手直しをさせられ、編集長はその後、念校をとり、帰宅されたんです。
ああいう気合いは今のぼくにはないかもしれません。で、今読むと、こしょばい、ところはあります。
そこまでせんとならんかったものが何か、青春でしょうかね、通過点として、ぼくの中で焼き付いています。だから、思い入れのある作品の一つであることには間違いありません。
文庫版は、解説が江國香織さん、なんですよね。

どういう物語だったか、というと、ですね。今更ですが、
大昔、函館と青森のあいだに連絡船が渡されていて、青函連絡船と言われてました。かつて、その青函連絡船の客室係をやっていた主人公が退社し、函館少年刑務所の看守になるんです。そこに、ある日、少年時代に主人公をとことんいじめていた、優等生の仮面をかぶった男が、傷害罪で入所してきます。つまり、立場が逆転するんですな。学生時代、残酷に主人公を苦しめたあのいじめっ子の同級生が、自分の監視下におかれる、という設定です。
父ちゃんは函館に4年間、住んでおりまして、当時のラグビー部の友人が、このモデルになります。彼はもともと青函連絡船で働いており、その後、転職して、函館少年刑務所の看守になるんです。取材は難しかったですよ。刑務所も見ることが出来ませんし、想像と記録だけが頼りです。ぼそぼそと語る友人の心情を、導線にして、自分の中に眠る記憶の函館に色をつけていき・・・、この作品は動き出しました。
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いじめられていた側が監視する側となり、前半は、逆転劇がうまれたかのように思えるんですが、まもなく、物語は深い闇の中で錯綜し、ねじれるような展開へと傾斜しはじめます。
面白い設定に興奮して、一心不乱になって書き上げたのを覚えています。候補になりましたが、これで受賞できなければ、選考委員が悪い、と本気で思ってましたよ。あはは、大馬鹿野郎ですね。
その「海峡の光」が最近、新潮文庫で重版が決まり、さらに、電子書籍化されたんです。
電子書籍化は、今朝のことです。世界各地で日本の本を買えない人がいます。辻さんの本、なかなか、買えない、という意見が多かったので、遠方の方には電子書籍化、嬉しい報告になりますよね。文字を大きく出来ますから、読みやすいのも、いいですね。
こちらから、どうぞ。(サンプルもあります)
☟
海峡の光 (Kindle版) https://amzn.asia/d/i8zPs4u

表紙は、ぼくが描いた油絵です。三越の個展で去年の夏に展示したもので、今はどなたの家に飾られているのでしょうね~。その作品を使わせて頂きました。作品にぴったりだと思いませんか?

辻仁成展覧会情報
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2026年の1月、パリの日動画廊で開催されるグループ展に参加します。
1月15日から3月7日まで。結局、11作品の展示となりました。フランス人巨匠も参加するグループ展だそうです。
GALERIE NICHIDO paris
61, Faubourg Saint-Honoré
75008 Paris
Open hours: Tuesday to Saturday
from 10:30 to 13:00 – 14:00 to 19:00
Tél. : 01 42 66 62 86
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それから、8月前半に一週間程度、東京で個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「鏡花水月」です。(予定)
タイトルは突然かわることがございますので、ご注意ください。
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そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催予定しています。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。


