PANORAMA STORIES
かつてよく通った思い出の寿司屋さんで Posted on 2026/03/10 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
今日はね、TPAのイラストレーションの田中先生とそのご主人と3人で、呑む予定でしたが、二人とも、来ませんでした。というのも、田中先生と呑もうと思っていたんですが、「主人を通してください」と言われたので、笑、バンド仲間でもあるご主人、こーぞー君にまず連絡をし、奥様のご予定を確認して、4時に某カフェで落ち合うと決めていたんですが、一時間待って、5時になってもだれも来ないから、「どうしたの?」とこーぞーに連絡いれたら、「あ、すいません。今から出ます。40分くらいでいきます」と戻って来て、かっちーーーーーーん、となって、「またにしましょう」とお断りしたんです。あはは。
怒っちゃいないですよ、父ちゃん寛大だから。あと、田中まき子先生は、情熱のある繊細なアーティストなので、TPAにとっては大切な中心人物になるはず・・・。はず・・・。笑。
ただね、今、夏の個展の絵描きと秋に出る小説の直しがあったんですが、TPAのために、田中さんとは話をしておきたかったので、ご主人を通して、超めんどうくせーな、と思いながら、カフェの席をあたためていたんですが、・・・。
来ん。
そしたら、ご主人から、「妻は化粧をして張り切って出て行ったので、叱られます」というような意味わからんメッセージが・・・。
知らんわ、と思いませんか?
でも、心優しい父ちゃんは、別に、気にしないでいいよ、こういうのはネタになるから、明日日記に書くから、と二人にお伝えし、そこを立ち、暮れなずむパリをふらふら、その時、すでにワイン一本飲み干し、それから、梯子酒・・・。
楽しかったです。
もともと、一人で呑むのが好きなので、気になりません。あはは。長い人生ですからね、こんなの通常運転ですよ。人生なんて、そんなもので、そのおかげで楽しいこともありました。
☆
実は、お二人を寿司にでも連れていこうと予約していた、パリで一番歴史の古い(37年)のすし屋兼焼き鳥屋、「鳥兆さん」に、行くんですが、3席予約していたので、一人だと申し訳ないのじゃないですか、知り合いのマダムを無理やり呼び出し・・・、あはは。
ここ、25年ほど前、家族でよく通った寿司屋(焼き鳥屋)でしてね、息子はここが好きで、つくねをよく食べていました。ぼくはここの大将が握る寿司が好きで、日本に比べたら物凄く安いんです。その頃は、3人家族でしたから、一人で行くのは、思い出が多すぎるので、知り合いのマダムに同席してもらいました。ハンカチ、持って来てくださいました。でも、いろいろと思い出しますものですね。


鳥兆の大将です。ほんとに、優しいおやじさんで、70歳越えなのに、かわらない。
「息子さん、元気?」
と最初のひとこと。
「つくねにしますか?」
ここのつくねは、卵の黄身がついています。それにつけて食べるスタイル、37年もこのスタイルだそうです。息子の大好物を彼は覚えていたんです。
「息子さん、いつもこればっかりでしたものね」
「いや、そうですね。トロ握ってください」
「中トロですが、いいですかな」
「大将、お願いします」
これが、美味しかった。
25年前、20年前、15年前、思い出しました。ここには、幸せな思い出しかないんです。だから、この10年、来てなかったのね。
大将が、息子のことをすごく心配してくれるから、涙が出そうに・・・。
「あいつ、今、すっごくがんばってるんですよ。社会に出て生きるための離陸の途中です。かっこいい優しい男に育ちました。たぶん、もう大丈夫だと思います」
と言ったら、よかったよかった、ですって・・・。過去を振り返るの好きじゃないんですが、味が、当時のままで、安心出来ました。ちょっと涙のせいで、しょっぱかった。



この、ニラ巻は、ぼくの大好物す。
「辻さん、いいんですか、今日はニラ巻食べないの?」
「あ、忘れてた。食べる!!!」
ということで、最高でした。こういう本物の焼き鳥は、パリでは珍しいですよね。泣きそうになる旨さでした。
お連れしたマダムも「トレボン(おいしゅうございます)」と褒めて頂けました。

あと、ここは、ネギトロ巻きもうまいんです。これですよ。大将が目のまえで叩いてくれるんです。こんなの、ここにしいかない、この築地スタイル。
※ 鳥兆は、モンパルナス駅のすぐ横の路地にあります。なんていうのかな、新宿のはずれとかにありそうな店構えで、ノスタルジー満載なんですよ。日本人には安心できる本物の味、でも、リーズナブルだよ。
店員さんはほぼ全部日本の若者たちで、生き生きしていました。
いい子たちだった。

はい、ということで、パリにも昔ながらの日本料理店がいくつか残っているんです。その代表格がここ「鳥兆さん」でした。ここはぼくのゼロ地点でもあります、フランスにおける。
とくに、カウンターの右端の3席は、家族の席でもありました。
さ、明日から、また頑張って生きていこう! えいえいおー。

そして、お知らせですが、
今週、大和書房から「父ちゃんの料理教室」文庫版。
3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。単行本。
3月30日、「対麺」、この後の日記で、詳しく発表させてもらいます。父ちゃん開発の新型ラーメンが待機中。
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
9月4日、小説「泡」、集英社。
10月、パリ、アートフェア出展。
11月5日から22日まで、リヨンでの個展。会場の住所や、画廊連絡先については、また後日、ここで発表します。
11月、7か8日、パリでのライブ、予定、現在交渉中。それにあわせたツアーをしげちゃんが計画中。まもなく、発表で、限定30名。
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そして、父ちゃんが校長をつとめる「帝京×パリ、オンラインアートカレッジ」のHPはこちらです。更新中です。
3月15日で、受講生、締め切りになります。
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Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。


