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毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」 Posted on 2026/03/19 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
すき焼き、お好きですか?
でも、実は父ちゃん、子供のころ、すき焼きを食べて育った記憶がないんです。
すき焼きというと、都会の人の食べ物、というか、見たこともない、感じでした。
うちの母は、洋風料理が得意でしたし、会社員の家庭だったので、(当時の月給は日本一だ、と父さんは自慢していたのですが)、実際、すき焼きを食べさせて貰った記憶がない、のです。
九州はどっちかというと、鶏肉料理、豚肉料理がメインでしたので、牛肉といえば、関西のイメージが強かったこともあり、大人になって、関西人のシェフから、すき焼きの作り方を伝授されるまで、父ちゃん、恥ずかしながら、すき焼き、食べたことなかった、です。
母に叱られそうですが、なかったです。
生まれてはじめて、大人になって、東京で、食べた時、なんじゃこら、と腰を抜かした思い出があります。
ぼくのおじさんの東君平さん(イラストレーター)が新宿の美味しいすき焼きやに連れてってくれたのが最初でした。
なので、この日記でも、すき焼き、出ないでしょ? 文化がないから、なんです。笑。
ということで、だから、ぼくが作るすき焼きはそのシェフから教わった関西風で、しかも、野菜はほとんど入れません。なぜなら、ひたすら肉を食べたいからです。
こちらの写真をご覧ください。赤肉しか置いてないようなフランスでも、この肉が安価に手に入ります。400gで15ユーロ、と日本ではちょっと考えられない金額で買えるのは、エースマートという韓国スーパーの肉専門店です。(在仏日本人の皆さん、これは、お得な情報ですので、行ってみてください。ケーマートに普段よく行く、父ちゃんですが、すき焼きの肉なら、エースマート! 日本の皆さん、失礼しました。あはは)
先日、日本にいた時、すき焼き食べたくて、大丸に行ったら、目から内臓が飛び出しそうなほど、高くて、ひっくり返りました。でも、うまそうな神戸牛だったんですが、・・・やはり福岡は鳥です。
中洲の「水炊き博多華味鳥」うまいです。水炊きはたまに食べさせてもらってました。あはは。

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

さて、父ちゃんのすき焼きはなんで、肉だけなのか、と申しますと、幼い頃に食べさせてもらえなかったトラウマが、肉へとまっしぐらになるからです。
大人になって、関東風、関西風と経験させてもらいましたが、個人的には、関西風で作ります。何が違うか、と言いますと、大きな違いは、割り下をどこで使うか、なんです。
関西は、肉を焼いた後に、割り下を投入しますが、関東は、最初から一緒に煮込んじゃいます。
しかし、あくまでも個人的な見解で、大人になって、両方を食べ比べて、何かが違う、と、気が付いたんです。割り下を後から入れた方が断然に、父ちゃんの好み、だったのです。

もう少し、詳しく説明します。なぜ、野菜をほぼ使わないのか、というのにはもう一つ理由があります。割り下が野菜からでる水分で薄まるので、その後につける肉が薄まって感じるから嫌なんです。
おっと、辻さん「割り下」ってなによ、とぼくと同じような幼少期を過ごされた皆さんに、解説しなきゃ、ですね。

「割り下」は、醤油をベースにみりんや酒などで割った下地調味料のことになります。ネットなんかで、調べると、だし汁に割る、という感じで書かれていますが、ぼくの言う割り下は、醤油、みりん、酒、砂糖、だけ。

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」



辻家のすき焼きの割り下のレシピ~。

味醂、酒、醤油50ml、砂糖大さじ1。味醂酒を煮切って、醤油砂糖加え、中火で砂糖溶けるくらいまで。炊きながら、煮汁少なくなってきたら酒、砂糖、醤油で味調整しながら、でーす。

じゃあ、すき焼き、作ってみましょうね。
肉の脂身をちょっとこそぎ集めまして、ラードでもいいんですが、まず、脂身を鍋で焼いて、肉汁+脂を出しまして、そこに肉をいれてまず、焼くんです。するってーと、肉のうまみが滲みだします。引き出す感じですね。ここに、割り下を投入しますと、写真のようになるんです。焼いて、肉の表面攻撃してから、割り下を投下することで、肉のうまみ封じ込めつつ、ジューシーさの方は一体となって、もう、うはうはう、とすごいことになってしまいます。

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

で、生卵ですね、全卵をといたものに、この肉をドバっと、載せるんです。もう、言葉が出ない、うまい肉。ああ、関西の人って、こんなに美味いものを喰っていたんだあ、なんて、羨ましい、と思いながら、肉だけを貪り食べるんです。白菜とか、シイタケとか、豆腐とか、「愛」を薄めるようなものは一切いれず、てんこ盛りの白米の上に、この言わば卵塗れの肉を載せて、目を閉じて、があああああああ、っと胃袋にかきこむって寸法です。ぶっ飛びます。おかげで味は薄くならないです。で、最後に、ちょっと用意しておいた、クレソンなんかを、一緒にしゃぶって、味変で、食べる、これが、父ちゃん風、つうな食べ方!
なんか、失礼なことを申し上げたなら、お許しくださいまし。しかし、うめーーーーのだあ。
今度、福岡に帰りましたら、母さんに、美味しいすき焼き、連れてってあげたいと思いました。
はい、ボナペティ!

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

至福~、からの覚醒!

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」



毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

お知らせでーす。
ラーメン博物館での「対麺」イベント、3月30日です。なんとか、飛行機ゲットできたので、行く予定です。そして、ポルケッターメンのチケットはこちらです。天下無双のポルケッターメン! すき焼きにも負けません。笑。

https://note.com/preview/n140dda70d0e6?prev_access_key=dbd8f2a5eeaaee47588a0d7e01e2e747

出た!エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。待望の新刊です。料理雑誌「ダンチュー」巻頭5年分の連載が一冊に!!!必読。

4月2日、TPA開校。

8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。全作品、60点、堂々、大開催です。まるで美術館に行くような入り口から出口と一方通行の個展になります。多分、特選画廊で、こんなことをやった人はいないでしょう。ものすごいこと考えています。

9月4日、小説「泡」、集英社、予定。
10月22,23,24日、パリのアートフェアに参加、詳細は後程。
11月4日から、3週間、リヨンで個展、決定。
趣味、愛犬の散歩、スクワット、料理、そして、仕事です。

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」



帝京×パリ・オンラインアートカレッジ

毎日が勝負飯、「黄金すき焼き」

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。