PANORAMA STORIES

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」 Posted on 2020/08/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日の夜、高画質フルHD配信のパリオンラインツアーの全貌が決定してしまった。こう書くとめっちゃ本格的な企業戦略家がしっかりと練ったツアーみたいに思うかもしれないが、熱血しげちゃんが大騒ぎして生まれた愛だけは人一倍あるオンラインツアーなのである。詳しい経緯は過去記事に譲るとして、とにかく、決定してしまったのだ。ベルサイユ宮殿だけではなく、もう一か所も…。

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」

©BEdrone



ベルサイユ宮殿での撮影許可が下りたこと、で、一気に話しが動いたのだけど、ベルサイユ宮殿から高画質フルHD配信で生中継する場合、フランスの配信会社の機材とスタッフを借りないとならない。これが物凄くお金がかかることが判明した。そればかりか、撮影チームを編成しないとならない。当然、お金がかかる。それどころか、フランスから出したデータを日本で受け取り配信するスタジオまで借りないとならない。これはすでに、日本のテレビ局レベルの大仕事じゃないか。しげちゃん、そんな背伸びしないで、ZOOMでいいんじゃないの、とぼくは意見を言ったのだけど、
「辻さん、介護施設のお爺ちゃん、お婆ちゃんに大型テレビ画面でどかーんとベルサイユ宮殿を見せたいんす。お金かかってもやらせてくださいよ」
の一点張り。ぼくは主催者じゃないし、お金出すわけでも、配信の責任をとることもないので、そこはしげちゃんのやりたいようにやればいい。心の中では、しーらない、と呟いていた。

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」



実はしげちゃん、このパリ企画の前に、自分の会社「旅介」で長谷寺のアジサイ見学ツアーをやっている。長谷寺のアジサイを高画質で日本中の介護施設に配信するという企画だったが、これは周囲の予想をはるかに裏切り、しげちゃんの予想通り、500の施設がチケットを購入してくださって、大好評だったのだとか…、確かに誰も思い付かないアイデアだった。各施設で何人が見てくださったのか、分からないが、結構な人数になる。需要があるものを探し出せるしげちゃん、凄いなぁ、と思った。
「辻さん、今までの旅って、旅に出れる人だけのものだったじゃないですか」
「たしかに」
「でも、辻さん、わちしが考える旅はちょっと違うんです」
相変わらず、私と発音できない、江戸っ子だった。

「わちしは、旅に出られない身体の不自由なご高齢の皆さんにこそ、旅をしてもらいたいんです。車椅子の方々にも世界を見せたい。いいですか、旅に行けない人に旅をしてもらいたい。そこからはじまった旅介なんですよ。旅と介護が合体した、わちしのアイデアなんです。で、コロナになった。みんな、もう誰も世界旅行が出来なくなった、旅に行けない人に旅をしてもらいたい、わちしの出番じゃないすか。わかりますか?」
携帯から唾が飛んできそうな勢いであった。でも、ちょっと、感動してしまった。旅をしたくても出来ない人にこそ旅をしてもらいたい企画、素晴らしい。ああ、また、涙が出そうだ。あのベルトラさんがやるんだから、大丈夫だろう。

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」



しげちゃんの思いはよくわかったので、ぼくはパリの仲間たちを集めて、相談することになる。しげちゃんとはZOOMで繋がり会議をやった。その中でスタッフから、どうせやるなら、ならば、もう一か所やりましょうよ、というアイデアが出た。テレビ番組だと、エッフェル塔の真下から中継というのがほとんど。そうじゃなく、パリ在住のぼくたちだからこそ出来る、知っている一番いいポイントから配信しようと、という企画へと話が広がっていった。それがエッフェル塔オンラインツアーだった。

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」



こうやって、急激に出来た企画だったが、実現へ向けて大きく動きだしている。ぼくは昨日、ZOOM会議の後、一人、エッフェル塔まで行き、何時間もロケハンをやった。そして、携帯で撮影しながら、歩くコースなどを決めていった。一番年長のぼくが動かないとしめしがつかない。ちょうど、トロカデロ広場で大規模なマリ共和国のデモに遭遇をしたのだけど、そこを突き抜けないとエッフェル塔に辿り着けなかったので、ぼくはその中を勇猛果敢に横断した。

アフリカ系の怖いお兄さんたちが物売りをしていて、途中で警察との追っかけっ子が始まったりしたけど、その中を撮影しながら突き進んだ。でも、最高のビューポイントを見つけることも出来た。最高の一時間まるごとエッフェル塔の旅である。中身に関してはきちんと作りこまないとならない。とはいえ、楽に、ゆるく、普段の暮らしの中から、生活者の目線で、エッフェル塔を見せたい。そうだ、実は、ぼくの家がエッフェル塔の真横にあった。今は引っ越して離れてしまったが、ぼくはエッフェル塔の公園の傍に十数年住んでいたのだ。土地勘がある。その土地勘を生かした優しい生活感溢れた配信にできたらいいね。



「辻さん、観ました。すっごくいいす。わちし、めっちゃ受けると思います。パリの雰囲気がすっごく伝わるアングルです。第一回目としては2000万点です」
「2000万点、…ありがとう」
≪つづく≫

滞仏日記「熱血しげちゃんのパリオンラインツアー、全貌が決まりましたぁ!」

※五重塔の前で、お子さんおんぶして三重塔をやってみせる子煩悩な熱血シゲちゃん。この写真をぼくに送りつけてくるところがハートフルですね。

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Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。