PANORAMA STORIES

見えない恐怖、買い占め、デマに錯綜する世界で一人ひとりができること。 Posted on 2020/02/29 Design Stories  

マスクや殺菌ジェルに次いで、日本でトイレットペーパー買い占めのニュースが流れた。どうしてトイレットペーパー? その理由は「原材料を中国から輸入できなくなる」や「トイレットペーパーはマスクと同じく材料が紙なのでいずれ不足する」といったデマが日本中に広まったから、なのだそうだ。実際はマスクとトイレットペーパーの原材料は違うし、中国からの輸入に関しても数%のみらしく、不足することはないらしい。しかしながら、今や買い占めはオムツやティッシュペーパーにまで及び、どこも”品切れ”状態。そのため、そのデマを信じない人も、結局、買っておかないと自分たちも困る、ならば買いに行くしかない、という負の連鎖が起こっているようだ。

見えない恐怖、買い占め、デマに錯綜する世界で一人ひとりができること。

それは、日本だけではない。イタリア・ロンバルディア地方で閉鎖されている街やミラノ市内のスーパーはみなどこも空っぽだった。このまま閉鎖され、孤立していくと流通もストップし、食べ物や日常品がなくなるのでは・・・、という不安は理解できる。(ミラノに住む友人に「食べ物ある?」と聞いてみたら、今はあるが、「ちょっと前はパスタと米と塩とトマト缶が消えた。ああ、イタリア!」という答えが返ってきた)

フランスでは、昨日(2月28日)毎日19時に行われる連帯・保健省、オリヴィエ・ヴェラン大臣の発表で、握手をさけ、咳をするときは口元を肘に、大切なのは最低1時間に1度の手洗いをすることが感染症から身を守る行動であるとし、マスクとジェルの買い占めは意味がないと付け加えた。特にマスクについては、「マスクは感染者と感染者の家族や周辺の人がつけるためのもので、関係のない人が薬局にマスクを買いに走るのは混乱を招く」と強調していた。

しかし、実際には、パリ中心地のスーパー、薬局では殺菌ジェルが売り切れ始めており、私自身も薬局とスーパー2軒でジェルを探してみたが、見つけられなかった。普段ジェルが置いてある付近にいると、数人のフランス人が「殺菌ジェルはありますか?」と店員さんに尋ねる声が聞こえてきたが、答えはどこも「品切れ中」だった。

医師の友人には毎日、医師会などから新型コロナウイルス関係のメールが届くらしく、彼はパリもロンバルディアのようになる可能性があるとし、一応パスタだけは多めに買っておいたと言っていた。パリ市内で女子寮のディレクターをする友人は、寮という集団生活の場であることから、危険リスクが高いと認定され、感染者が出た時のために国からマスクが配られたと言っていた。パリの人々も、徐々にパニックに備えた行動をし始めていることがわかる。



そんな中、今朝(2月29日)イタリア・ミラノで休校中の高校の校長先生が送った手紙が話題になっていた。その内容はイタリアの作家、マンゾーニの『許嫁(いいなづけ)』の第31章、17世紀に流行ったペスト感染の状況を引用し、文明的で合理的な思考をしましょう、というものだった。

マンゾーニ著『許嫁(いいなづけ)』第31章には、
「外国人を危険と見なし、当局間は激しい衝突。最初の感染者をヒステリックなまでに捜索し、専門家を軽視し、感染させた疑いのある者を狩り、デマに翻弄され、愚かな治療を試し、必需品を買い漁り、そして医療危機」

といった内容(当時の状況)が書かれてあるという。校長先生は「君たちもよく知っている通りの名前がいくつも登場するこの章は、マンゾーニの小説というより、まるで今日の新聞を読んでいるかのようです」と続けている。
(手紙全文はこちら➡️”イタリア新型コロナ:休校中の校長が生徒に送った手紙が秀逸!と話題”(「ボン先輩は今日もご機嫌」)にて)

見えない恐怖、買い占め、デマに錯綜する世界で一人ひとりができること。

*一時期イタリアのスーパーでも買い占めがあったようだが、今は商品が戻りつつあるらしい



この校長先生の指摘どおり、全くその通りの世界が今、目の前にあることに驚いてしまった。集団パニック、不安という恐怖が起こす人間の行動というのは17世紀も、情報が溢れる21世紀も同じであることがよくわかる。今、私たちに必要なのは、情報の真意を識別する力、そしてそれに沿った行動である。トイレットペーパーやマスクを巡って喧嘩しているなどというニュースを読むのは悲しすぎる・・・。
これから予想される感染ピークに向け、一人一人の思慮分別と小まめな衛生対策が新型コロナウイルスという感染症を抑えるカギとなるだろう。



Posted by Design Stories

Design Stories

▷記事一覧

デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
パリ編集部からパリの情報を時々配信。