PANORAMA STORIES
夏、パリの噴水アートを探して Posted on 2025/07/05 ルイヤール 聖子 ライター パリ
暑さの厳しい、パリの夏。エアコンが普及していないので、緊急的に涼をとれる場所もかなり限られています。
そんな中で、ほっとできるのが「噴水」や「ミスト」といった清涼スポット。エアコンに比べると一時的ではありますが、近づくだけで、身体の熱がすうっと引いていくのを感じます。
しかし見ていると、パリの噴水が驚くほど芸術的であることに気づかされました。壮大なもの、ユニークなもの、シンプルに癒されるもの……と、それぞれのストーリーを知ると、噴水のそばで過ごす時間がもっと好きになれそうです。今回はパリの噴水8か所を巡ってきました。
・イノサンの泉(Fontaine des Innocents)
パリ1区、シャトレ近くにあるイノサンの泉は、パリ最古の噴水です。製作年は1547年〜1550年にかけて。ルネサンス時代の優美なレリーフに囲まれた噴水は、もともと古い墓地の記念碑だったそうです(1788年に現在の場所に移転)。
「サーサー」と水の流れる音が心地よく、青空との相性も抜群。ヨーロッパの石造り建築の技術にも見惚れてしまいます。
また、かつてのフランスでは、水を操る技術が「自然への支配」、つまり王の力の証とされていました。このイノサンの泉をきっかけに、パリでは次々と噴水が造られていくことになります。
・コンコルド広場の噴水(Fontaines de la Concorde)
パリ随一の広さをもつコンコルド広場には、双子の噴水があります(北側=川の噴水/南側=海の噴水)。
「川の噴水」が表現するのは、ローヌ川とライン川。彫刻はそれぞれの川を擬人化したものです。
一方の「海の噴水」には、地中海と大西洋を象徴する像が置かれています。これらは当時のフランス海軍の力を称えているそうです。
※2024年、パリ五輪直前の光景
二つの噴水は1836年〜1840年にかけて製作されました。どちらもフランスの地理的特徴を表現していますが、なんとなく、パリ市の標語である「Fluctuat nec mergitur(たゆたえども、沈まず)」に通じるものを感じてしまいます。
・サン=ミッシェルの噴水(Fontaine Saint-Michel)
カルチェ・ラタンの入り口にある壮大なサン=ミッシェルの噴水。残念ながら2025年〜2026年までは修復工事のため、その姿を見ることができません。
そんな噴水の像が示すのは、「サタンを退治する大天使ミカエルの姿」です。これらの修復はパリの美術工房「アトリエ・ド・ラ・ヴィル・ド・パリ」が担当し、工事終了時には新しい給水システムも導入されるそうです。
こちらは待ち合わせスポットとしても有名ですね。初めて訪れた際は、美しさのあまり首が痛くなるまで見上げていました。
・パレ・ロワイヤルの噴水(Les fontaines du Palais-Royal)
現代アート的な要素を取り入れたパレ・ロワイヤルの噴水は、パリの中でも異色の存在です。
この噴水、実は「動く噴水」で、水のささやきに金属が触れ合うことで不思議な音のハーモニーを奏でています。製作年は1981年、作者はベルギー出身のアーティスト、ポル・ビュリ。彼は生涯で60を超える噴水彫刻を世界各地に設置しました。
パレ・ロワイヤルの噴水は涼むというより、耳を澄ませて鑑賞する噴水。歴史的な噴水と見比べてみるのも面白いです。
・ストラヴィンスキーの泉(Fontaine Stravinsky)
さて現代アートといえば、ポンピドゥー・センター横にあるストラヴィンスキーの泉です。
ポップでカラフルな16色の彫刻は樹脂製で、それぞれロシアの作曲家、ストラヴィンスキーの作品を表しているそう。一度見たら忘れられない、そしてちょっとクセになる(?)フォトジェニックな場所です。
・ルーヴォワの噴水(Fontaine Louvois)
知られざる名所がこちら、ルーヴォワの噴水です。4つの女性像は、フランスの4つの大河(セーヌ、ロワール、ローヌ、ガロンヌ)を擬人化したもの。製作年は1839年、パリ2区のルーヴォワ広場にあります。
近づくと確かにひんやりしますし、噴水下の芝生で横になって読書することもできます。通り過ぎるだけではもったいない、ちょっとしたご褒美のような噴水です!
・チュイルリー庭園の噴水(Fontaines des Tuileries)
パリの噴水としてはまったく普通の造りですが、優しい雰囲気をまとった噴水です。きっと、周囲で休む人々の姿がそうさせているのでしょう。
2024年のパリ五輪では、この噴水に聖火台が置かれていました。2025年6月にはなんとこの聖火台がカムバック! 2028年のロス五輪まで、毎年夏に設置されるそうです。
※現在は自由に入ることができます
・モリエールの泉水 (Fontaine Molière)
最後に、ひそやかながら美しい噴水のご紹介です。パリ1区、リシュリュー通り沿いにあるモリエールの泉水は、1844年に建てられました。
フランス劇作家モリエールを讃える噴水で、中央に彼の像、両脇に「喜劇」や「真実」を象徴する女性像が置かれています。水の出は弱めながら、品格ある佇まいがとても素敵です。
このようにフランスでは、噴水は王の権威や都市の美しさをあらわす存在でした。特にパリでは、政治関係の建物の近くに噴水を据えることで、「秩序」や「力」を可視化していた時代もあります。そうした背景を知ると、パリの噴水がどれも芸術作品のように見えてくるのも納得です。
かつては権力の象徴だった噴水、現在は憩いの場である噴水。パリ以外では、ヴィシー(Vichy)やエクス=レ=バン(Aix-les-Bains)といった“水の町”にも数多く存在しています。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。