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愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」 Posted on 2022/04/15 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

 
フランスは夏時間になり、春らしい陽気の日も増え、フランス人の同僚たちとの間で、ガーデニング話で盛り上がるようになった。
春らしいフランス・デザインといえば、「カシュ・ポ(cache-pot:植木鉢)」。
今回は、フランスの2つの植木鉢の話。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※園芸店のカシュ・ポ売り場



 
実は、フランスで見かける素敵な植木鉢、その多くに水の受け皿がついていない。
ガーデニング初心者の私は、その仕組みを理解せずに失敗してしまったことがある。
室内で育てていたバジルの植木鉢にコバエが大量発生。
慌てて鉢の写真を携帯で撮り、園芸店に駆け込んだところ、「植木鉢に直に植えちゃダメだよ」と。
直に植えないとは…? と考えていたら、薄いプラスチックの鉢の売り場に案内された。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※薄いプラスチックの鉢売り場

 
植木鉢を二重構造にするための、内側用の鉢だという。
色は、土に馴染む茶色、植物に溶け込む緑、シンプルな黒、根っこの生育がみえる透明などがあり、好みで選んで良いそう。
これを、陶器や、ブリキ、籐のカゴなどの「カシュ・ポ」に入れることで、インテリアに馴染む観葉植物になるという。
籐のカゴでも水が漏れないのは、内側にビニールで防水加工がしてあるから!
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※根の生育がみえる透明なもの

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※カゴのカシュ・ポの内側はビニールで防水加工

地球カレッジ



 
「カシュ・ポ (cache-pot)」とは、直訳するとcache=覆う、pot=鉢ということで、「鉢隠し」という意味だが、デザイン性のある植木鉢のことをこう呼ぶ。
内側の薄いプラスチックの鉢が、フランスにおける真の植木鉢「ポ(pot)」だったのだ。
私は「カシュ・ポ」に直接、土を入れて植えてしまい、水が溜まったことで、コバエが大量発生。
フランスの「カシュ・ポ」は受け皿の役割で、植木鉢「ポー」に植えなければならなかったのだ。
そんなわけで、薄いプラスチックの鉢を購入し、植え替え、事なきを得た。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※フランスの植木はカシュ・ポに入れる前提でプラスチックの鉢に入っている

 
この話を同僚たちにすると、園芸店で販売されている「ポ」にこだわらなくても良いという。
内側の鉢から水が抜けるように、二重構造にすればいいだけだし、外側の「カシュ・ポ」は好きな器でも良いと言われ、目からウロコ。
そこで、お気に入りの湯呑を植木鉢に仕立ててみた。
内側のポーは、湯呑とピッタリサイズが合った蜂蜜の空き容器を使い、底には穴を開けて、キチンと水が抜けることを確認したら、土を入れて植え替えだ。
選んだ植物はミニゴムの木で、湯呑の釉薬がポテッと垂れた感じがゴムの樹液っぽいのと合わせてみた。
なんでも植木鉢になると思ったら、器を選ぶのが楽しくなる。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※蜂蜜の空き容器に植えたゴムの木と、ゴムの樹液が垂れたような湯呑



 
そして、2つ目の植木鉢の話。
ベルサイユ宮殿の庭園や、パリの公園で見かける四角いプランターは「カシュ・ポ・ド・ヴェルサイユ(Cache-pot de Versailles:ベルサイユ式鉢隠し)」とか、「ケス・ア・オランジェ(Caisse à oranger:オレンジの木のための箱)」などと呼ばれている。
初めてフランスで見たときは、なぜ庭園なのに木が直植えではなく、箱に植えられているのかが不思議だった。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

 
そもそも、その名のとおり、柑橘樹木用として開発されたのが始まりだ。
歴史を紐解くと、時代は11世紀の十字軍まで遡る。
フランスに渡った柑橘樹木は、中国が起源とされ、ペルシャ人からアラブ人に伝わり、シチリア島に辿り着いた後、欧州各地に広がったという。
当時のフランスの王侯貴族の間で、エキゾチックな柑橘樹木の所有はステータスとなり、一気に人気が出た。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※シンプルだが特徴的な形状はフランスの多くの庭園で採用されている

 
だが、温暖な気候を好む柑橘樹木に、ベルサイユ宮殿があるフランス北部の冬の寒さは厳しく、地植えすると、冬の訪れとともに掘り上げる手間がかかった。
その問題を解決したのが「ケス・ダアンポタージュ(caisses d’empotage )」。
寒い冬は室内に持ち込み、春になったら外に移動させることで越冬が簡単になった。
イタリア人造園家のパチェロ・ダ・メルコリアーノが発案し、この手法で初めて柑橘類をフランスの地で順化させた。
当時のデザインは、簡素な輸送用の箱を転用したものだったが、その後、1670年にフランス式庭園の祖、アンドレ・ル・ノートルが、ルイ14世のために作ったのが「ケス・ア・オランジェ」。
ベルサイユ宮殿や、パリの公園で見かける今の形状に仕上げたのは、18世紀の名工アンドレ・ヤコブ・ルーボだった。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※アンドレ・ル・ノートルの像は彼が手掛けたテュイルリー公園に

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※ヴェルサイユ宮殿の庭園に並ぶ、カシュ・ポ・ド・ヴェルサイユ



 
そして、そんな柑橘樹木が越冬するための専用空間を「オランジュリー(orangerie)」と呼ぶ。
印象派のモネなどが収蔵されている、オランジュリー美術館も、かつてはテュイルリー宮殿の柑橘樹木用の温室だったのだ。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※温室だったガラス張りのオランジェリー美術館

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※中は日光がたっぷり入る設計

 
「ケス・ア・オランジェ」の名残を感じる四角い植木鉢が並ぶ街並みは、いかにもパリっぽい。
元は、王侯貴族のステータスだったと思うと、感慨深いものがある。
自宅にもひとつ欲しいところだけれど、まずは、湯呑ゴムの木を愛でようと思う。
 

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※我が家の湯呑ミニゴムの木

愛すべきフランス・デザイン「フランス式ガーデニングで、お気に入りの器をカシュ・ポに」

※フランスらしい角形の植木鉢が並ぶ

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。