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ボローニャから春便り 散歩のススメ Posted on 2017/04/11 荒川 はるか イタリア語通訳・日本語教師 イタリア・ボローニャ

ボローニャから春便り 散歩のススメ

我が家の大切な習慣の一つに散歩がある。

夫も私も自宅で仕事をする時間が長い我が家では、朝晩、週末関係なくパソコンの前で過ごしがちだった。
健康に良くないのは明らかで、少し体を動かそうと、ある時から時間が自由に使えるのを逆手にとって散歩をするようになった。
 

ボローニャから春便り 散歩のススメ

一緒に歩く、至ってシンプルなことだけど、体や頭、そして心の酸素を入れ替える、欠かせないひとときになった。

心の中に淀んだ思いを引き出したり、くだらないことを言い合ったり、自分達や身近な人達の話をしたり。
言い合いになって別々に家に帰ったこともあるが、そんな時は一人でヒートした頭を冷やせばいい。
歩きながら話すことで、気持が解放されていくのを感じるし、お互いの気持を受け止める時間でもある。
 

ボローニャから春便り 散歩のススメ

それに、自然を眺めて、巡りゆく季節を楽しむことも散歩の楽しみの一つ。
もともと風景写真を専門にしていた写真家の夫は、自然の変化に敏感だ。

季節が巡ってくるとふと心に残る風景を思い出し、その記憶を辿って二人でその景色を探しに出かける。
 



ボローニャから春便り 散歩のススメ

野原に花が咲き始め、木々が芽吹き、高らかな鳥の声が響き始める。
心も体もほぐされる季節がきた。

ここでは東京に住んでいた頃より、色濃く春の訪れが感じられ、一気に迫ってくる感じがする。
このタイミングを逃すまいと、桃の花を見にヴァルセルストラ渓谷を訪れた。
 

ボローニャから春便り 散歩のススメ

なだらかな傾斜の田園風景が続く。

最初の桃園ではまだ五分咲きというところだった。
さらにしばらく行くと、ようやく鮮やかな桃色のカーペットが見えてきた。胸が弾む。
足を踏み入れるとブンブン、ジーっという力強い蜂の音が耳につく。
蜂達は襲いかかってくる様子もなくせっせと蜜を吸っているので、こちらも存分に春の喜びを味わわせてもらう。
 

ボローニャから春便り 散歩のススメ

夫は絵になるアングルを探してどんどん進んで行く。私はほころぶ花々の中で深呼吸。
春のエネルギーを肺いっぱいに吸い込み、視界に入るすべてのものとこの季節の到来を祝う。
生命力溢れる春の真ん中に身を置くと、日々の不安や期待、焦りなどが、ちっぽけなものに思えてくる。

抜けるような青い空の下、他に花見をする人など誰もいない桃園を好きなだけ散策すると、いつになく夫の表情が和らいでいることに気づく。自分もそうなのかもしれない。
 

ボローニャから春便り 散歩のススメ

ほんの少し日常から離れることで、違った尺度で現実を見直すことができる。
語らいと自然の美しさに心が安らぎ、大切なものが見えてくる。

こんな散歩のひとときに支えられ、二人で山や谷を乗り越えて十年が経とうとしている。
この先も日々の「ちょっと一息」でパワーチャージすれば、大抵のことは乗り越えて行けるかな、と思っている。

次の散歩はどんな景色を見せてくれるのか、楽しみだ。
 

Photography by Maurizio Fantini

 



Posted by 荒川 はるか

荒川 はるか

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Haruka Arakawa
イタリア語通訳・日本語教師。東京生まれ。大学卒業後、イタリア、ボローニャに渡る。2000年よりイタリアで欧州車輸出会社、スポーツエージェンシー、二輪部品製造会社に通訳として勤める。その後、それまでの経験を生かしフリーランスで日伊企業間の会議通訳、自治体交流、文化事業など、幅広い分野の通訳に従事する。2015年には板橋区とボローニャの友好都市協定10周年の文化・産業交流の通訳を務める。2010年にはボローニャ大学外国語学部を卒業。同年より同学部にて日本語教師も務めている。