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はばたけ、日本のフロマージュ! Posted on 2018/11/15 辻 仁成 作家 パリ

50年ほどの歴史があるフランスにおけるチーズ生産者の団体ギルド・クラブ(正式名称、ギルド・アンテルナショナル・デ・フロマジェ・エ・コンフレリー・ド・サントュギュゾン協会)が2017年、日本にギルド・クラブ・ジャポンという団体を設立した。私はこのギルド・クラブよりこの10月にプロテクトゥール・ド・ラ・ギルド (Protecteur de la Guilde)と呼ばれる称号を与えられたのだ。まあ、チーズの日本における宣伝と普及に貢献してほしい、ということであろう。チーズ大好きな辻仁成にとっては函館観光大使に負けないくらい大変栄誉なことである。日本のチーズ生産者の第一人者たちと混じって受勲式に挑ませていただいた。日本のチーズは日進月歩、美味しくなっている。そして世界へと羽ばたきだしている。クラブ・ジャポンは日本のチーズ生産者が生み出した美味しいチーズを世界へ届ける役割も担うという。さて、どんな団体なのか、チーズ好きの筆者は受勲式で日本各地の生産者たちの横顔に触れた。
 

はばたけ、日本のフロマージュ!

ギルド・クラブ・ジャポンは、ギルド(生産者)という冠を配するだけに、チーズ業に関わるプロフェショナルたちの会として、製造者・販売者をサポートし、輸入業者・流通業者と共に日本のチーズ文化を内外に発信する大きな使命を担っている。全世界で7000人ほどの正規会員が所属する一大チーズ生産者の組織であるが故に、ここの会員になることで相互会員の交流が促され、世界的なつながりが約束されるのだという。製造者も含めチーズの世界を深く知り、品質の良いチーズを食し、世界に通用するチーズ製造を促していく、というのだから、素晴らしい。
 

はばたけ、日本のフロマージュ!

那須の高橋雄幸さん。彼の作る山羊タイプの茶臼岳はしばしばパリにもお目見えする。

 

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帯広の花畑工房さんの富田さん。ラクレットでも有名どころ。

 
私は小学校の六年生から高校を卒業するまで北海道の帯広市と函館市で過ごした。十勝平野を中心に各地でチーズが生産されているのは有名だ。幼い頃に北海道チーズで育ったことが部類のチーズ好きに私を成長させた。フランスに移り住んだ理由をよく聞かれて、曖昧にごまかしてきたが、本当のことをあかすならば、美味しいワインと本物のチーズと日本では食べることのできない最高のバケットを毎日食べることが出来るから、なのである。ところが昨今、日本のワイン、チーズ、フランスパンの味は飛躍的に向上した。
 

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幸せ牧場の本間さん。コンテタイプを放牧乳で作っている。

 

はばたけ、日本のフロマージュ!

あまたにさんご夫妻。溜まり漬けの裂けるチーズが好評。

 
ところで私がこの団体で称号を与えられたきっかけは、当デザイン・ストーリーズ紙上で毎月チーズについて記事を書いてくださっている久田早苗さんの推薦を頂いたからだ。久田氏は日本では「チーズ王国」の設立者の一人であり、2004年パリに「フォロマジェリ・ヒサダ」をオープンさせ、フランス人に日本のチーズ的感覚を届け続ける第一人者となられた。2008年にはフランスで最高のチーズ熟成士の称号、メートル・ド・フロマジェを取得。私は単なる彼女の店の顧客でしかなかったが、連載を通してこの数年、久田氏とチーズを語ることが多くなった。ギルド・クラブ・ジャポンはこの久田早苗氏と同じく副会長の本間るみ子氏を中心に2017年に設立された。本間さんはジャーナリズムで普及に努めるチーズのスペシャリストで、非常に聡明な語り口と熱弁の持ち主でその深いチーズへの愛は私を感嘆させた。お二人は出で立ちも背格好もそっくりで、私はかげで二人のことを「チーズの姉妹」と呼ばせていただいている。チーズ顔というものが世に存在するなら、この二人のような顔立ちじゃないか、と想像する。ギルド・クラブ・ジャポンの会長は本国の会長でもあるローラン・バルテルミー氏が共務されている。
 

はばたけ、日本のフロマージュ!

そして今年の受勲者たちの顔ぶれも幅広かった。日本各地でのチーズ生産に力を入れられるまさに日本チーズ界の大黒柱ばかり。
 

はばたけ、日本のフロマージュ!

ギルドという名前を付されている理由がよくわかる布陣で、この方々たちの日々の小さな努力の積み重ねが今日の日本チーズの成功へと繋がっている。そのほかに、チーズのすばらしさを世界に届ける評論家、編集者、記者などメディアの方々も受賞された。とにかくチーズ大好きな人たちがチーズの祖国フランスからお墨付きをもらい、がやがやと集まってチーズとワインを飲んで、笑って、和んで、日本のチーズの姿を想像する、会なのであった。その穏やかで打ちとけた雰囲気の受勲式が日本のチーズの未来を物語ってもいた。ギルド・クラブ・ジャポンのこれからの発展と日本のチーズの世界的な広がりを期待せずにはおられない。私もまた個人的に日本の生産者を訊ね、日進月歩する日本のフロマージュのおいしさを体験してみたいと思った。頑張れ、ギルド・クラブ・ジャポン!
 

はばたけ、日本のフロマージュ!

 
 

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。