PANORAMA STORIES

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」 Posted on 2023/03/20 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

※ イタリアの離島イスキアでシェフをされている八重樫さんから届いたかわいいお話のリサイクルです。

フォリオの長閑なメインストリートの一角に、ポトラックという店があります。
ポトラックは友人のスージーが営む小さなセレクトショップで、僕は毎日通りすがりに軽く手を振って店の奥にいる彼女に声をかけるのです。「チャオ、スージー。今から学校へお迎えだよ」「あら、もうそんな時間? 私も市場に行かなくちゃ」
 

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

ここ10年ほどで老舗の個人商店が次々と店じまいをしてしまった中、ポトラックは移転を繰り返しながらも頑張っています。しかしただ待っているだけではお客は来ない世の中、数年前から彼女は空き時間を使って店の片隅で布にペインティングをするようになりました。絵の勉強などした事もない彼女でしたが、持ち前のセンスと忍耐力でその腕前をあげてゆき、今では素晴らしい作品を描くようになりました。テーブルクロスやランナーをメインに、ベッドカバー、Tシャツ、最近では小物入れ、クッションなども作っています。
 



イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

こだわりを持って選んだ麻、亜麻、木綿などの布地の上に専用の絵の具でペインティングをするのですが、何と言っても色遣いがとてもおしゃれ。何色も重ねて混ぜて、インスピレーションを頼りに少しずつ進めていく過程は興味深く、時間に余裕のある時、僕はその様子を見に立ち寄ります。「今こういうのを作っているのだけど、ちょっと見てくれる?この色どうかしら?」そう言って布を広げる時の彼女はとても生き生きとしていて、気忙しさを言い訳に何にも没頭できない僕にとっては少しうらやましいほど。
 

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

その作品のファンも少しずつ増えてきていて、最近ではオーダーメイドのものも多く手掛けるようになりました。「作品を一つ仕上げたら、それを買ってくれる人がどんなことを感じてくれるか想像してみるの。気に入ってもらえた時は、それはもうこれ以上ない位うれしいのよ。」
 

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

僕は、Design Storiesで料理の記事を書かせて頂くようになってから “食卓を飾る” という事の楽しさや難しさに改めて気づかされました。毎回、家にある小物や食器を引っ張り出してきては、どうしたら見ている人が笑顔になれるようなテーブルを演出できるのだろうか、と思いを巡らせながら撮影しています。写真もテーブルセッティングも素人で本当にまだまだなのですが、大事なのは料理と同じで、誰かをもてなしたいという気持ちなのではないでしょうか。昔、料理人になるなどとは夢にも思っていなかった学生時代、深夜のラジオから流れてきたある言葉に感銘を受けたことがありました。「どんなに高級な食材を使っても、気持ちを込めて作らなければ、料理はエサになってしまう」
少し強い表現でしたがそのフレーズは僕の胸にすとんと落ちました。それは言い換えると、たとえ質素なものでも心を込めたものにこそ価値があると言うことだと思います。
時には子供が摘んできた一輪の野花が食卓を幸せで包んでくれるように。
 



イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

私たちは毎日食卓につき、食事をとります。家族と、友人と、恋人と、あるいは一人で、家で、招かれた先で、レストランで、もしかしたら病室で。
生きていると色々なことが起こるし、感情にも波があります。それでも今日は今日なりに頑張っている自分をいたわって、感謝の気持ちを忘れずに席に着いたなら、それは心にとってとびきりの栄養になることでしょう。
去年、僕は一枚のテーブルクロスをスージーに注文しました。彼女も大好きな星の王子様をモチーフにしたもので、デザインや配置、色や台詞にいたるまで二人で話し合い作ってもらいました。それはテーブルクロスというよりも、まるでやさしさが布になったかのような仕上がりで、Design Storiesで使うのを今から楽しみにしています。
 

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

POTLAC (Miragliuolo Assunta)
Via Matteo Verde 27 80075 Forio
 

イタリアの離島から「スージーのテーブルクロス」

 

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Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。