PANORAMA STORIES

新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた Posted on 2020/03/18 佐藤 希恵 ピアノ弾き、ピアノ講師 ドイツ・ランツベルク

とうとう今週からドイツのバイエルン州でも、学校、幼稚園が閉鎖になり、国境も封鎖された。先週の金曜日に学校閉鎖が決まり私の勤める音楽教室も学校同様の扱いで休校となった。金曜日に来た生徒たちは「いっぱい宿題がでた」とか、「毎日先生からメールで課題がきてそれをやらなければならない」と口々に言った。学校によっていろいろな対策が組まれているようだ。
 

新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた

4月末から始まるドイツの高校卒業試験(大学進学資格試験)『アビトゥーア』“Abitur“ と向き合う生徒達にとって今はまさに、試験準備の大事な時期でもある。「コロナの影響で今休校になったら困る」と先週生徒が不安そうに言っていた。延期されるのかどういう対策が組まれるのか今は情報を待つしかない。私は金曜日のうちに生徒の親に音楽教室も閉鎖になるというメールを送った。「完全に理解しています。このまま健康でいてくださいね」とほとんど親御さんたちからは寛大な理解を頂いた。しかし、中には個人レッスンならできるだろう、とわざわざ教室までやって来て言う親もいた。
「この音楽教室はグループレッスン、個人レッスンのある音楽教室で大きな建物ならまだしもここは小さな建物の中にあり、なおかつ大勢の生徒がやってきます。個人レッスンであっても待っている間に他の人との接触が必ずあるし、もしこの期間にレッスンを行いコロナウィルスの感染者が音楽教室から出てしまったら私達の責任になります。あなた方の子供達を守る為なんです」
教室の代表が対応にあたり、このような説明をし、なんとか納得してもらうことができた。
 



新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた

1月の末、まだドイツでコロナについてそこまで大きく話題にしていなかった頃に、バイエルン州でコロナ感染者が出た。しばらくして感染した人が私の住む町の住人だったことが公表されたが、特にパニックになることもなく市民は冷静だった。音楽教室では特に大人の生徒からコロナについていろいろな情報を得ることができた。
「コロナは体の弱い人やお年寄りには危険だけど、普通の人が感染しても命の危険はほぼ無いらしいからパニックになる必要はない、それより怖いのはインフルエンザ『グリッペ』“Grippe“だ」
と誰かが話していた。まだ、その程度の理解力だったのである。ところが、それから1ヶ月が過ぎ2月末からカーニバル休暇に入った。ドイツに感染が拡大した理由の一つにこの休暇中にスキーなどで国外に行く人が多かったこと、そこから帰ってきた人達から感染が広がったことが、指摘されるようになる。私の場合、大人の生徒とはレッスンの最初と最後にあいさつとして握手をする。休暇が明けてからは人との接触に敏感になっている人もいるので、生徒が握手を求めてきた場合に限り、その手を握ることにした。ほとんどの生徒はいつもと変わらず握手であいさつしたが、中には「この期間は握手ではなく日本式にお辞儀のあいさつにしよう。お辞儀をすることで相手への尊敬の気持ちが込められていていいよね」と言った生徒もいた。お辞儀は日本式なので、私は個人的に嬉しかった。
 

新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた

ドイツの現在の感染者数は、フランスに並び、6000人程度である。いきなり、感染者が増えた印象がある。そんな中、ドイツで問題になっているのが『ハムスターカウフ』“Hamsterkauf“と言われる行為だ。直訳すると「ハムスター買い」となる。ハムスターのように物を貯め込むという意味でいわゆる『買いだめ』のこと。このハムスター買いは学校閉鎖になると決まった途端に始まり、学校閉鎖=スーパーも閉鎖するかも、という考えにたどり着く人が多いようで、誰もがカートいっぱいに買い物をするようになった。特にパスタ、缶詰類、トイレットペーパーはほぼ売り切れ、商品棚がガラガラになった。買いだめはやめてほしいがイタリア、フランスで外出の制限が出されたことで、さらにその傾向が強まった。ドイツ人が「明日は我が身」と思うのも理解はできる。約2ヶ月前まであんなに冷静だったドイツ人、彼らが今パニックになっているのが、長年ここでドイツ人と暮らしてきた私にとっては奇妙であり、意外であり、不思議だった。
 

新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた

それでもマスクは誰もしていない。ヨーロッパでマスクをしていると危ない感染症を持った人と思われるのでマスクをする習慣はない。ドイツのロベルト・コッホ研究所はマスクの着用は感染者からのくしゃみや咳のしぶきは抑えられるが、感染防御には十分ではないとしている。でも、少しでも感染拡大させないためにもマスク着用はするべきだと、日本人の私は思う。

いつも当たり前のように向き合っていた音楽教室の生徒達とのレッスンが突然なくなり、心がスカスカする。ワクチンをめぐってドイツとアメリカで対立していたが、そうではなく、世界全体の問題なのだから世界中が協力しあわなければいけない。手洗いをこまめにしたり、必要以上に出歩かないなど、一人ひとりが感染予防を心掛けることが大事なのだと思う。

早く普段の生活に戻れますように。
 

新型コロナ・パニックがドイツを激しく揺さぶりはじめた

 



Posted by 佐藤 希恵

佐藤 希恵

▷記事一覧

Kie Sato
宮城県石巻市出身。ピアノ弾き、ピアノ講師。ドイツバイエルン州ランツベルク在住。2011年ドイツに渡る。フライブルク音楽大学卒業後、2014年よりランツベルクの音楽教室でピアノ講師として勤務。