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ワインおじさんの独り言「ボルドーワインの奥深さを学ぶ」 Posted on 2020/12/16 前川 大輔 ワイン商 パリ

ワイン商にとって生産者を訪問することはとても重要な仕事の一つです。
私が勤めるワイン商ルグラン&コーには4人のバイヤーが在籍しており、生産者の訪問は主に彼らの役割ですが、私たち営業側のスタッフも定期的に生産者を訪問しています。
ロックダウンが緩和された12月、私たちはボルドーへ向かいました。
ボルドーはパリから南西へTGVで約2時間半、フランスのワイン産地で最も重要な地域です。
ワイン産地としてのボルドーにはドルドーニュ川が流れ、セーヌ川によって2つの岸に分けられるパリのようにその西側が左岸、東側が右岸と呼ばれます。



左岸は主に砂利が堆積した低地にあるのに対し、右岸は砂、砂利、粘土、石灰が堆積した丘の上にあります。
水はけがよく温かい土壌を好む黒葡萄カベルネ・ソーヴィニヨンは温かい砂利質土壌の左岸で、一定の水分を必要として冷たい土壌を好む同じく黒葡萄のメルローは保湿性の高い粘土石灰質土壌の右岸で栽培されています。
これまでのボルドーの気候ではうまく成熟することが難しかった黒葡萄カベルネ・フランが地球温暖化の影響でよく熟するようになり、最近は両岸で重要な役割を果たしています。
左岸の代表的な産地としてメドック地区やグラーヴ地区がなどが、右岸にはサンテミリオン地区とポムロール地区などがあり、左岸には大資本による大規模なシャトーが多いのに対し、右岸は家族経営の小規模なシャトーが大部分です。
私たちルグランは左岸の著名なシャトーと長いお付き合いがありますが、それに加えて重要視しているのが右岸にある小規模なシャトーで、今回はその右岸を重点的に訪問してきました。

ワインおじさんの独り言「ボルドーワインの奥深さを学ぶ」



まだ夜明け前の早朝パリを出発した私たちはTGVでボルドー駅に到着、そこでローカル線に乗り継いで右岸の中心地リブールヌ市に降り立ちました。
最初に向かったのがサンテミリオンのシャトー・ド・ミルリー。
敷地は僅か0.81ヘクタール、右岸の中でも取り分け小さいこの秘密の園は、サンテミリオンの特級シャトー・フィジャックの所有者マノンクール夫妻が1942年に買い取って、フィジャックのチームによって大切に管理されてきました。
一年間で生産されるワインは僅か4000本程度。
これまでは一族向けの個人消費用として造られてきたのですが、2017年以降私たちルグランがその正規代理店として秘密のヴェールを解くことを許されました。
私たちを迎えてくれたのがフィジャックの支配人フレデリック・フェイとそのアシスタントのグウェナイエル。
フレデリックは2013年に技術責任者から支配人に昇格してから一気にフィジャックの品質を高めた凄腕技術者でありながら、優れた営業マンでもありラテンのノリでとにかくおしゃべり…。
「皆さん今日は雨の中ようこそ!今日はアシスタントの彼女が皆さんにシャトーを紹介しますね!」と挨拶してから、延々30分は彼の独壇場(笑)。

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さてはて、このシャトー・ド・ミルリーは長年世の中に販売されることがなかったので、貴重な年代物のボトルがまだまだ残っており、今回は複数年を垂直で試飲できる幸運に恵まれました。
試飲したのは2015年から2010年までの6ヴィンテージ。
90%がメルロー、10%がカベルネ・フランで構成され、良く熟したプラム、ブルーベリー、そして仄かなミントが印象が感じられます。
そして興味深いのがその色調の変化。
試飲したワインで最も若い2015年は赤みを帯びたルビーのような赤紫色、そして年を重ねるごとにオレンジの色調を纏うガーネットのような柘榴色へと変化します。
例外は試飲したワインで最も古くサンテミリオンの偉大なヴィンテージ2010年で、私たちの予想に反して青みを帯びる紫紺の色調です。
一般的にボルドーの赤ワインは青みを帯びた紫から年を重ねるごとに赤紫、そして柘榴色、最終的には栗色へと変化するものですが、年代の良し悪しでこのように例外が数多くあるのがワインの面白さでもあります。
個人的な好みは難しかった年と言われる2013年。
色調はオレンジを纏う柘榴色、オレンジリキュールや杏子の甘酸っぱい香り、ミディアムボディで、タンニンも細やか、今まさに円熟期を迎えた美味しいワインでした。私たちの世界ではこうした複数年を同時に試飲することをヴァーティカル・テイスティングと呼びますが、同じシャトーの異なる年代のワインを複数同時に試飲することで、各年代に共通するもの、各年代ごとに異なるものを理解することができる絶好の機会となりました。

ワインおじさんの独り言「ボルドーワインの奥深さを学ぶ」



その後、貴重な特級シャトー・フィジャックの3ヴィンテージ、2015年、2011年、2009年を垂直で試飲する贅沢な機会に恵まれ、予定時間の2時間を1時間もオーバーして今回の訪問は終了。
試飲の最中もフレデリックの説明は途切れることなく、私たちはシャトー・フィジャックとシャトー・ド・ミルリーをみっちり学ぶことができて大満足。
でも、あれれ、アシスタントのグウェナイエルは最後までお話しする機会に恵まれず、ラテン人フレデリックの独演壇は最後まで続いたのでした(笑)。
みなさん技術者というと職人気質の寡黙なイメージを持っている方が多いかもしれませんが、ボルドーの技術者はとにかくワインのこととなると話が止まらない、そしてそれは以降の訪問でも繰り返されるのでした。
次回は、午後に訪問したポムロールについてご報告します、お楽しみに!

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自分流×帝京大学

Posted by 前川 大輔

前川 大輔

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上智大学卒。2009年渡仏、2010年シャンパーニュ・ランスでMBA取得。
2010年ルグラン・グループ入社。古酒&レアワイン部門のディレクター、2020年よりルグラン・ジャポン社長兼務。