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奇想天外なオランダに、東京で会いましょう Posted on 2017/06/01 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム

みなさんはオランダと聞いて何を思い浮かべますか?
チューリップ、風車、チーズ、自転車など、興味があるものによって人それぞれのイメージがあると思います。

私がオランダと聞いて一番に思いついたものの一つ。それはピーテル・ブリューゲルとヒエロニムス・ボスという少々個性的な二人の画家でした。
少しマイナー過ぎるかも知れませんが、多分みなさん(少なくとも私と同世代の方ならば。笑)、一度は学校の美術の教科書か何かで目にしたことがあると思います。

今回は、そんな作品数も少なく地味でありながらも、一度観たら脳裏に焼きつくような衝撃を放つ個性的な二人が東京でお披露目されているということで、これはまたと無いチャンスと思い、ご紹介をさせていただく次第です。
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

ピーテル・ブリューゲル1世 「バベルの塔」
1568年頃 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands


 
 
まずはブリューゲル。
同名の長男と区別するためにブリューゲル(父)なんて表記されることもあるようです。16世紀に活躍した画家ですが、その生い立ちなどはあまり記録に残されていません。
この時代には珍しく農民の生活を多く描いたことから「農民画家」と呼ばれ、驚くほど細かいところまで緻密に描写していることから、その時代の人々の生活を絵巻物語のように読み解くことができます。

前項で示唆した中学校の教科書に出てきた「雪中の狩人」(1565年)をはじめ「謝肉祭と四旬節の喧嘩」(1559年)、「子供の遊戯」(1560年)など、虫眼鏡を取り出して隅から隅まで舐め回すようにみるとそれだけで一日が終わってしまうような細かさです。

来日している作品のハイライトである「バベルの塔」(1568年頃)もまた然り。
旧約聖書に則り、塔を建設する際に使われたであろうクレーンや建築技法、船や水路にいたるまでを全て忠実に描写しており、それはもう絵画の域を超え、もはや模型。
絶対、中に誰か住んでいるとしか思えません(笑)。

さらに今回は東京藝術大学が制作した縦横の長さが実物の約3倍ある拡大複製画も一緒に展示されているとのことで、ブリューゲルが執念で描き上げた一筆一筆を細部まで隈なく堪能することができるはずです。
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

東京藝大によるブリューゲルの「バベルの塔」を縦横約3倍に拡大した複製画展示風景イメージ
(「バベルの塔」展主催者提供)


 
 
「バベルの塔」を所蔵するオランダのボイマンス美術館(ロッテルダム)の館長は展覧会に先駆け、“「バベルの塔」についてなら3週間語れる”と話したらしいですが、私たちのような観賞者でも3時間くらいはゆうに必要な迫力です。

また今回来日した「バベルの塔」はブリューゲルにとって現存している限り2枚目のもので、1枚目はもう少し塔の高さも低くこじんまりした雰囲気のもの(ウィーン・美術史博物館所蔵)になっています。
こちらと比較してみるのも楽しいですね。
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

​ヒエロニムス・ボスに基づく 「聖アントニウスの誘惑 」
1540年頃 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands


 
 
対するボスは、ブリューゲルより少し前の1450年頃、ルネサンス期のネーデルラントに生まれたと言われています。当時よりヨーロッパ各地の王侯貴族から大人気で、現存する油絵は25点と少数ながらも、今でも世界各地の美術館で展覧会が開催されています。

さて、そんなブリューゲルにも影響を与えたというボスですが、彼の絵は一体どんなものだったのかと言うと…、それが何とも、上品なデザインストーリーズ読者の方にはご説明するのも躊躇うくらいなシュールぶり。
いまどきの言葉で言うと“キモカワイイ”というのでしょうか。それが当時の王侯貴族に大人気というのですから、アートというものはいつの時代も説明不可能な厄介者というわけです。
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

ヒエロニムス・ボス 「放浪者(行商人)」
1500年頃 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands


 
 
ボスを鑑賞する上で鍵となるのはその“モチーフ”たち。彼の絵は“寓意的”であるとしばしば表現されますが、キャンバスの上に散りばめられた数々のモチーフたちが雄弁に作家の意図を語ってくれています。

気になる絵やモチーフを見つけたら、ぜひご自身でどんな意味があるのか調べてみてください。時に、絵画の裏に潜む奇想天外なメッセージに目が点になることがあるかも知れません。そしてそんな驚きとストーリー性こそ、ボスが時代を超え、文化を超えて、愛される秘密かも知れません。
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

ヒエロニムス・ボスの故郷、デン・ボッシュ(スヘルトゲンボス)の象徴「聖ヤン大聖堂」
©Nanako Makino

 
 
同時代に生まれた二人の奇才、ボスとブリューゲル。故郷オランダでも二人の作品を同時にまとめて観ることは難しいものです。

この機会に、ぜひ少し変わった個性豊かなオランダを体験しみてはいかがでしょうか。
私も展覧会のためだけに日本に戻りたいくらいです!
 

奇想天外なオランダに、東京で会いましょう

今回来日した作品を所蔵するオランダ・ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館
©Nanako Makino

 

<展覧会情報>
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―
7月2日(日)まで開催中
会場:上野・東京都美術館
http://www.tobikan.jp

Posted by まきの ななこ

まきの ななこ

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Nanako Makino
ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。