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パリを彩る、古い文字の秘密。 Posted on 2023/03/06 ルイヤール 聖子 ライター パリ

 
パリを歩いていて、ふと気付いたことがあります。
街並みが美しいのはもちろん、看板やお店の名前が、実に魅力的な文字で描かれているのです。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。



 
「パリの街はフォントが綺麗」、私はこう思いました。
そもそもフォントという言葉が存在しなかった時代から、これらの文字は使われてきたわけですが、古い街並みと同じように残すべき文化だとも感じます。
たとえば老舗の飲食店。
歴史的なカフェやショコラトリーはパリにいくつもあって、店の軒先には素敵な文字が並んでいます。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

※パリ・マレ地区のカフェ

 
こちらのカフェに描かれているのは「ブール体」というそうです。
なんでも、手書きの時代は筆を押し付けるようにして描いていたのだとか。
文字ですが、「書く」というよりは「描く」の方が似合っているような気もします。

パリで一番古いお菓子屋さん「ア・ラ・メール・ドゥ・ファミーユ」にも同じ文字が採用されています。
こちらは緑色のファサードに金色で店名が刻まれており、その建物は歴史的建造物にも指定されるほどです。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

※パリ9区、フォーブール・モンマルトル通りにあるア・ラ・メール・ドゥ・ファミーユ

地球カレッジ



 
パリの有名なパッサージュ、ギャラリー・ヴィヴィエンヌに立ち並ぶお店にも風情があります。
この辺では、マレ地区に負けないほど古い文字を発見することができます。
ロンド体やバタルド体といった中世に生まれた筆記体が、今でもこうして大切にされているのです。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

※ギャラリー・ヴィヴィエンヌでは美しい筆記体が映える

 
さてパリの街角で見かける、○○通りという表示板も素敵です。
これはパリの各通りに必ず存在していて、鉄板あるいはブリキ板でできています。
深い緑色と濃紺、そして白文字のコントラストが特徴的で、それ以外のものは認められていません。
屋根のような部分に書かれているのは、パリの区名(arrondissement)です。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

 
しかしかつてはブリキ板ではなく、直接建物の石壁に彫られていたそうです。
都市開発の影響でほとんどが現在の形に変えられたとのことですが、古都保存委員会や熱心なパリ市民の努力もあり、サン=ルイ島など一部の場所ではそのまま残されています。
 



パリを彩る、古い文字の秘密。

 
また文字で思い出すのは、地下鉄1号線と12号線が交差するコンコルド駅です。
アルファベットが壁一面に並ぶ光景は圧巻の一言。
ただ色とフォントのバランスが良いのか、どんなに見ていても疲れることがありません。
ちなみにこのコンコルド駅は、パリジャンが好きな地下鉄駅の第3位にも選ばれています。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

 
パリの街並みが美しい理由には、こうした文字の活躍もあると思います。
テクノロジーを追いかけて、本当に必要なものから遠ざかってしまいがちな世の中で、古いものの存在は気持ちを鎮めてくれます。

一方、片田舎と呼ばれるフランスの地域では、自然と調和した家々が柔らかで美しい景色を作り出しています。
そういった地方ではパリと同じか、あるいはもっと雰囲気のある文字が使用されていたりします。
フランスらしいこの景色が、いつまでも残るよう願っています。
 

パリを彩る、古い文字の秘密。

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Posted by ルイヤール 聖子

ルイヤール 聖子

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2018年渡仏。パリのディープな情報を発信。
猫と香りとアルザスの白ワインが好き。