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破られた”沈黙の掟”。フランス・フィギュア界を揺るがす性的虐待。 Posted on 2020/02/06 Design Stories  

フランス・フィギュアスケート連盟は、同連盟の執行役員を勤めるジル・ベイヤー(元コーチ、スケート選手)を解雇した。理由は、未成年プレイヤーに対する性的虐待である。この問題は、ペアスケート元世界選手権銅メダリストのサラ・アビットボルさんが2020年1月末に「Un long silence(長すぎた沈黙)」という自伝を出版した事で明るみにでた。その本によると、1990年から1992年までの2年間、当時コーチであったジル・ベイヤーから繰り返しレイプを受けていた、当時、彼女は15歳(〜17歳)だった、という。ジル・ベイヤー本人もその事実を認め、「不適切な関係だった」と謝罪したが、「不適切」どころの話ではない。しかし、もっと酷いのは、サラ・アビットボルさんは現役引退後、その事実をスケート連盟会長にも、当時のスポーツ省にも訴えたが、「目を瞑れ」と相手にされなかった、というのである。当時のスポーツ大臣はそのやりとりを「覚えていない」と言っているらしいが、スポーツ相とテクニカルアドバイザリー契約をしていたジル・ベイヤーは、ある時からその要職を解消されている。彼女のインタビューを聞きながら、15歳の少女がどれだけ恐ろしく悔しい経験をしたかを想像し、こみ上げる怒りで震えた。「これは二人の秘密だ」という言葉が彼女をこれまで黙らせていたという。今回、サラ・アビットボルさんがオメルタ(沈黙の掟)を破った事で、被害に遭っていたが口に出せなかったという選手が次々と沈黙を破った。ジル・ベイヤーだけでなく、性的暴行をした他のコーチの名前も上がり、現スポーツ大臣はスケート連盟で長年会長を務めるディディエ・ガイアゲ氏の責任問題を追及している。

破られた”沈黙の掟”。フランス・フィギュア界を揺るがす性的虐待。



フランスの現行法では、成人と15歳未満の未成年者の性的関係は罰せられる。そして、その犯罪期間は成人(18歳)になってから30年間と決めらており、48歳になるまで相手を訴える事ができる。現在、サラ・アビットボル氏は44歳。「自分にも8歳の娘がいる、その子達を守るために自分の辛い経験を表に出し、根っこから変えなければいけないと思った」と語っていた。
これが発端となって、フランスでは、スポーツコーチの性的虐待というものがいかにスポーツ界に蔓延しているか、という事が話題になっている。性的虐待が行われているのはスケート界だけではない。つい最近、あるテニスコーチが未成年選手への性的虐待で禁固18年を言い渡されたところであった。現在、28のスポーツ種目で77件の性的虐待が明るみに出ており、特に重大なのは、一度性的虐待で起訴されたとしても、そのうちの約80%が、地域を変え、また同じように未成年者のコーチに戻っており、親はその彼らの過去を知らずに子供を託しているということだ。しかも、そのうちの2人に1人が同じ罪を繰り返しているという・・・。被害に遭った子供の中には12、3歳の子供もいる。コーチを信じ、情熱と夢を持ってスポーツに取り組む子供を権力で押さえ込み、自分の欲望を晴らすなんて、同じ人間として恥ずかしい。昨年末、日本では性的暴行を受けた伊藤詩織さんの勝訴が世界でも大きく取り上げられた。このフランス・スポーツ界における性的虐待問題、おそらく、同じような出来事が世界中で起こってきたのじゃないか、今も起こっているのじゃないか、と想像をしてしまう。



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デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
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