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フランスで、発酵。 Posted on 2019/08/14 ぷち やすこ 管理栄養士 パリ

私が「発酵」に親しみ始めたのは10年ほど前だったでしょうか。友人より、当時フランスで唯一、トゥールにある生の麹やお味噌を扱うお店「さんが」を教えてもらい、そこから麹を取り寄せ、見よう見まねでお味噌を仕込んでみたのが始まりでした。すると思いのほか美味しいお味噌の出来上がりに大満足!以降、毎年お味噌を仕込むようになり、そのうち仲の良いお友達たちから教えて欲しいと頼まれるようになり、友人たちと年に2回ほど行うお味噌仕込みが年中行事となりました。
 

フランスで、発酵。

フランスで、発酵。

回を重ねるごとに、生きものである麹を毎回注文するのが大変になり(値段や郵送のタイミングなど)、麹も自分で作れるようになりたい、という思いがフツフツと湧き上がってきました。そして、作り方を検索、友人と麹作りに挑戦することになりました。今から考えると及第点ギリギリのような出来でしたが、とりあえずちゃんと麹が出来上がった時の感動といったら!
麹作りの手順とは、お米を洗い、一晩水に浸け、水切りし、蒸す。その後、麹菌をお米にふりかけ、48時間保温。途中、自家発熱し、どんどん温度上昇する麹が気になって気になって、初めて挑戦した夜はほとんど熟睡できず。新生児を見守るような一晩だったことを覚えています。

最近はお味噌を手作りする人も増え、塩麹や甘酒がブームになっているので世間の認知度も上がってきていますが、まだまだ多くの方が「麹」のことを知らないのではないでしょうか。麹とは、お米や麦、大豆などに麹菌(ニホンコウジカビ)を生やしたものなのですが、お味噌をはじめ、醤油、酒、みりん、酢など、ありとあらゆる和食の調味料はその麹から作られているのです。なので、麹がなかったら、今のこの和食の文化は全く違うものになっていたと言えます。麹のおかげで、保存技術、発酵技術が進歩し、また、繊細な「甘味」や「旨味」になれ親しみ、私たち日本人の味覚が発達してきました。その結果、「和食」がユネスコ無形文化財に登録されるまでになったのです。麹は、いわば、和食の母のような存在。日本の食文化は麹、発酵から始まっていると言っても過言ではないのです。
 

フランスで、発酵。

最近では”腸活”という言葉も生まれ、腸内細菌、微生物の有益性も広く知られるようになって来ました。腸活は健康や美肌といった面でクローズアップされる事が多く、その流れで発酵に目を向けられる方も増えて来ていますが、実は私が発酵に惹かれる一番の理由は、菌たちの生態、微生物同士の関係性が私たちの暮らし、人生にとってもリンクするところが多い、というところだったりします。

いわゆる腸内細菌は、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割いるのですが(と言っても、本当は、微生物に、善も悪もなく。あくまでも、私たち人間目線でそう決めているだけなのです)、もちろん悪玉菌が増えてしまうと体調を壊したり、病気になったりしてしまうけど、善玉菌だけいてもダメ。バランスが一番大切で、そのバランスが保たれている状態が健康であり、調和が取れてる状態なのです。すなわち、それは私たち人間社会も一緒。今の社会はどうしても合理性や効率性を求めすぎて、ハンディキャップがあったり、仕事のできない人、自分と意見の違う人、そりが合わない人を排除しようとしがち。だけど、そういう人たちもいて、多様性があってこそ、バランスの取れた世の中だと思うのです。

発酵ごと、麹造りをしていると、目に見えない、ちっちゃなちっちゃな存在が確実に存在していることを実感できます。そして、その微生物、小さな力がとてもありがたい存在なんだと、心から感じることができます。食品の発酵と、人生の発酵。ぜひ多くの方に、この魅力的な発酵の世界を体験していただきたいな、と心から思います。
 

フランスで、発酵。

 
 

Posted by ぷち やすこ

ぷち やすこ

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かぐやカフェ主宰。「麹の学校」認定講師。大学卒業後、管理栄養士取得。レストラン勤務ののち、大手エステティックサロンへ就職。管理栄養士の資格を生かし、痩身を目的のお客さんに栄養指導をする。次男誕生後、パートナーの体調不良がきっかけでマクロビオティックやレイキなど代替医療に出会い、カラダとココロの癒しへの探求を始める。途中、友人設立の幼児教室「あいけいばたけ」にて、「いただきますのじかん」を担当。2013年、Ena Beautyと出会い、女性のカラダとココロの解放を目的に「えなトリートメントの施術者に。2016年、カラダとココロがよろこびにあふれ、本来の自分自身に戻ることのできるスペース「かぐやカフェ」をはじめる。同年、豆腐マイスター取得。2018年なかじ氏によるオンラインスクール「麹の学校」にて、麹や麹文化、腸的生き方などを学ぶ。現在は、麹&発酵食を通じ、自然や微生物たちとの共生、多様性を尊重したぷくぷく発酵ライフを提唱している。