PANORAMA STORIES

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~ Posted on 2025/09/30 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

 
季節の変わり目は夜風に乗ってやってくる。深夜、人けのない路地を歩いていると不意に流れてくる花の香り。月をよぎる急ぎ足の雲の群れ。ざわめくような生ぬるい空気。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~

 
仕事柄いつも帰りは遅くなるのですが、家に向かう途中で「あ、もうじき次の季節になるんだな」と感じる瞬間があります。四季の気配というのは人が寝静まっているうちに夜風に乗って、ひっそりと街を包んでいくのだと僕は思っています。年にほんの数回ですが、そんな季節の足音に気づけた時は、忘れていた懐かしい記憶が蘇ってきそうな、ちょっと甘酸っぱい気持ちになります。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~

 
さて、毎日厨房にいると、仕入れで入ってくる野菜や果物、魚介類で季節を感じることもできます。いわゆる旬の食材というやつですが、夏の終わりから秋にかけてイスキア島でたくさん獲れる魚があります。シイラという魚なのですが、みなさんご存じでしょうか。え、知いらない?日本も南北に長く地域差が大きいですが、もしかしたらお住まいの地域でも水揚げされているかもしれません。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~



 
ただ、シイラは日本ではあまり人気がないと小耳にはさんだことがありました。だとしたら大変勿体ないことで、ここでは大変安価にもかかわらず、味は高級魚のぶりにも勝ると言われます。結構な大きさに成長するシイラですが、中くらいのものが特に美味しいと思います。食べ方はアクアパッツァを始め、グリルやオーブン焼きなど多様です。しかし鮮度が落ちるのが早いので、仕入れた当日、または次の日のうちに食べないと身がすぐに変わってしまいます。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~

 
そしてうちのレストランで人気なのがマリネです。ただし、シイラの皮には菌などが付いているため、調理には注意が必要です。レストランでは下ごしらえ用と仕上げ用のまな板を別にしていますし、包丁もその都度よく洗います。その代わりカルパッチョにすると大変美味で、日本でも刺身や寿司にして食べる地域もあると聞きました。
今回ご紹介するのはレモンや香辛料を使ったマリネですが、これが本当においしいのです。あまり馴染みのない魚なうえに調理にも気を使うとなれば、ハードルが高いと思われるかもしれません。でも信頼できるお魚屋さんに下処理を頼んでみたり、後はそれこそブリや余ったお刺身などを利用しても良いかと思います。いずれにせよ、旬のものを旬のうちに食べられる幸せは、値段にかかわらず大変ありがたく,贅沢なことですよね。ともすれば忙しさにかまけて見過ごしがちな季節の変化を、五感をフルに使って感じ取っていたいものです。それではレシピをどうぞ。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~

 
               魚のマリネ
材料
○シイラ又はブリや他の魚の柵 q.b.(適量)○レモン1個 ○にんにく 一かけ
○セロリq.b.  ○イタリアンパセリq.b. ○塩、オリーブオイルq.b.
○お好みの香辛料(唐辛子、黒胡椒、スターアニス、ネズの実、フェンネルシードなど)
○大葉 q.b.
色々と書きましたが、欠かせないのは塩、にんにく、レモン、オイルです。香辛料は唐辛子と胡椒だけでも大丈夫です。個人的にはセロリの風味が好きなので必ず入れています。
全部適量と書きましたが、参考までに今回使用したシイラの柵は約280gで、それに対しレモンは中くらいのを半分ほど絞りました。
作り方
① 魚の柵を約5~7ミリ程の厚さに切っていきます。お刺身よりちょっと薄いかな、というくらいです。それを適当な大きさのバットなどに少し広げて並べます。
② 塩を振り、全体にレモンを絞ります。薄切りにしたにんにく、香辛料を加え、オリーブオイルを全体がひたひたになるくらいまで入れます。パセリやセロリは茎の部分を軽く叩き、風味が出やすいようにして加えます。
③ ラップをして冷蔵庫で1時間から数時間置き、たまに全体を揺らします。魚の表面が白っぽくなってきたら出来上がりです。なかなか白っぽくならないときはレモンの量が少ないので追加しましょう。余り漬けすぎると固くなります。周りは白っぽく、中心は生というのが理想です。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~



 
④ お皿に盛り付けオリーブオイル、または漬け汁をかけ、飾り付けて出来上がりです。ここでぜひ加えてほしいのが大葉です。ルーコラも良いのですが、このマリネと大葉の相性が抜群でイタリア人にも大好評でした。お試しください。
もしも余った時は、漬け汁からあげてお皿に移しましょう。オリーブオイルを少しかけてラップをし冷蔵庫へ。次の日のうちに食べきりましょう。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~魚のマリネ~

 
この夏、僕は家のプランターで大葉を栽培しましたが大変重宝しました。海鮮丼に、てんぷらに、ドレッシングに、そうめんの薬味にと大活躍で、来年もぜひ栽培したいと思っています。抗菌効果もある素晴らしい日本のハーブですね。それではまた、普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
 

自分流×帝京大学



Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

▷記事一覧

Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。