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COVID-19感染が広がる北イタリアから Posted on 2020/03/15 奥山 理恵 ワイン輸入・コーディネーター イタリア・ピエモンテ

パソコンの前に座っていると、ふいにワイナリーのフランチェスカからメッセージが届きました。
「理恵、元気かしら。私たちは、今、とてつもない大きな戦いのさなかにいるわね。この緊急事態が終わることを信じて祈っていることを日本の素晴らしい友人たちに伝えて」
1月中旬、ピエモンテのワイン生産者、フランチェスカとフランチェスコの二人を日本に招待して、東京、札幌でワイン会を開催しました。もし、その時期が1週間でも違っていたら、きっと実現できなかったかもしれません。その時には、想像もしていなかった状況に世界が急速に変化していきました。

フランチェスカに返信する言葉を考えながら、最初にふと、合言葉のように「私は、家にいます。Io resto a casa」と送信しました。政令によって個人の移動制限、そして食料品、生活必需品,薬局を除き販売活動が休止されたイタリアで、感染拡大を防ぐために今、私たちがしなければならない重要なことは、「家にいること」なのです。「私も家にいるわ。自宅の一角のワイナリーで、春に出荷するワインのボトル詰めをしていたのよ」



「今、家で何をしているの」とイタリアの友人にメッセージを送ると、そのほとんどがお料理をしている写真です。その他、家の中でペットと過ごしている人、壁塗りや家の掃除、メンテナンスをしている人もいます。同じ町に住む稲作農場のヴィクトリオからのメッセージには、「今日は、家でニョッキを作っている。明日は、稲作農場で仕事。もう農閑期が終わって春の準備をしなければならない。ニョッキを食べにくるかいと言いたいところだが、家にいたほうがいい」そしてワイナリーのフランチェスコからは、4枚の写真が次々に送られてきました。「子供たちは、学校が休校なので、毎日、キッチンで様々なお料理をしている。昨日は、Cannelloni (カネロニ:大型のパスタに詰め物をしたもの)に挑戦していたよ」そして次にもう1枚の写真が送られてきました。「集中治療室で苦しんでいる患者、そして会うことができないその家族、休息をとることも出来ず疲弊してしまった医師たちのことを思って、昨夜、寝る前に子供たちが蝋燭をともして、窓辺に飾っていた」と書かれていました。

COVID-19感染が広がる北イタリアから

COVID-19感染が広がる北イタリアから

今のところ3月25日までとされている商業活動の制限は、薬局やスーパーの営業が継続される他に、生活必需品として電気通信機器やオーディオ、家電、眼鏡、コンタクト、自動車燃料、暖房燃料、ガラス、照明器具、ペット用品のお店、新聞、定期刊行物のお店やクリーニング店など営業を継続することができます。そして公共交通機関も運行しています。銀行・郵便・保険会社など金融や、ワイナリーの友人たちのように農業・畜産業・サラミやチーズ工房など農産品加工、流通業も継続されています。日本のニュースなどで知られている状況と異なり、イタリア人は比較的冷静です。外出を回避し、それぞれが家で過ごしています。イタリアで最初に移動制限が課されたロンバルディア州とその周辺の14県に含まれているピエモンテ州ノヴァーラ県で暮らしていますが、少なくとも私の知っている限り、毎日の生活は、いつものように大丈夫です。感染拡大をストップさせようと“Io resto a casa”(私は家にいます)がハッシュタグにもなっています。今、イタリアの街は、人がいない、まるで映画のセットのような光景が広がっています。現在の状況を理解し、規則を守り家にいることをみんなが実行しているからです。外出を控え、家にいることによって少しでも感染者が減り、イタリアが再び、元に戻れるようにと誰もが願っているのです。

COVID-19感染が広がる北イタリアから

今度は、フランチェスカからメッセージが届きました。春になり活動しはじめたブドウの樹から滴る樹液の写真と一緒に「Il pianto della vigna è speranza! (ブドウの涙は、希望!)」という言葉が添えられていました。
刻々とCOVID-19が感染拡大していった北イタリアの状況下に置かれた中で、私は、イタリア人たちの新たな一面を見たような気がしました。その根底にある何かに惹かれているからイタリアにいるのかもしれません。

5月に一時帰国をして東京でワイン会を開催する予定にしていましたが、ワイン会どころか北イタリアからの帰国は、現在の状況では難しいと感じています。次回のワイン会は、いつになるかわからないですが、それは、このとてつもない大きな戦いが終わった時です。その時、東京でお会いしましょう。イタリアの素晴らしい友人たちの造るワインで乾杯です。

COVID-19感染が広がる北イタリアから



Posted by 奥山 理恵

奥山 理恵

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2001年よりイタリア在住、ボローニャ、ヴェネツィア、ローマに滞在後、現在北イタリア ピエモンテ州北部ノヴァーラ県で暮らす。イタリアソムリエ協会ソムリエ資格、マスターコース修了。2008年、日本にワインを輸入するため株式会社Wine・Artを設立。ピエモンテワイン、イタリア食材の直輸入、ワイナリー訪問、農業視察や農業調査などイタリア現地コーディネート。