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フランス語の輪郭「じゅぷろん さ」 Posted on 2020/01/15 辻 仁成 作家 パリ

どんな言語でも、まず喋るために大事なことはその言語の輪郭を知ることだと思う。日本語は特殊な言語なので、日本語で置き換えて学ぼうとする、と学ぼうとする言語の本質を見誤りかねない。そこでまず、フランス語の輪郭、それはフランス人のキャラクターやフランスの文化を含んだアバウトな輪郭を学ぶことも必要となる。生きたフランス語を学ぶ方が断然、フランスが面白くなる。ということで、さっそく、もう一つのフランス語的な表現を覚えてみよう。はじめてどこかのお店に入って、何かを買いたい、と思う時にとっても役立つ言い方である。

Je prends ça.

こう書いて、 発音は、“じゅぷろん さ” となる。
注文するとき(メニューを指しながら)「私はこれにします」、
買い物をするとき(品物を手に)「これを買います」というような状況の時に便利だ。

カフェでギャルソンが注文を取りに来て、コーヒーくらいなら「じゅぷろん アン カフェ しるぶぷれ」ですむのだけど、ややこしい名前の飲み物や料理だったら、いきなりは言えないので、メニューを指さして、じゅぷろん さ、がいい。

ちなみに、じゅぷろん、と書いているけど、ぼくには、じゅぽん、にしか最初は聞こえなかった。外国語には日本語にない発音もよくあるので、注意。じゅぷろん、と、じゅぽん、の間くらいなんだな、と何も考えずに覚えていってよろしい。グーグル翻訳とかに、Je prends ça、と入力すると発音してくれるから、参考にされたし。

フランス語の輪郭「じゅぷろん さ」



「さ」とは、なんとも便利な一言なのである。“あれ”とか“これ”とか“それ”という意味を持つ、指示代名詞なのだ。
そう、「さば?」のさ「Ça 」で、Cの下にニョロがついてるやつ。

フランス人の会話をきいていると、「さ」しか言ってないじゃん、ということもある。上げたり下げたり、会話の中にニュアンスの違う「さ」が飛び交ってる。結構、かわいい。民謡の、はいさ、はいさ、はいさっさ、みたいな世界。

たとえば、お菓子屋さんで欲しいケーキの名前が読めなくても、指で指しながら、
じゅぷろん さ しるぶぷれ。
(それをください)
といえば、店員さんも指を指しながら、さ?さ?と、確認してくれる。英語もそうだけど、最後に、PLEASE、を忘れちゃいけない。しるぶぷれ、(お願いします)を付けることは、そこがどこであろうと、人間として大事なことだよ。

指さし注文で、さ、と言った後、店員さんが、さ?、とき返してきて、それで良ければ、せ さ!(それです!)と答えてあげればいいのだ。はいさっさ。

「じゅぷろん さ」さえ言えれば、あなたの欲しいものはだいたい手に入る。フランスで買い物するのが楽しくなるよ。楽しくなることがその国を好きになる第一歩だ。フランス語の輪郭、第二回、わかったかな?

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。