PANORAMA STORIES

フォトフィーバー 〜コレクションを始めよう〜 Posted on 2018/11/25 Sae Cardonnel 美術・演劇教師 / MUZ ART PRODUCE代表 パリー京都

晩秋のパリ、時折気まぐれな太陽が雲間から覗くものの、傘嫌いのパリジャンに挑むような大粒の雨の日が続く。
それでも熱狂的な写真好きは、第一次世界大戦終結100周年記念式典の影響で混乱する交通網をもかいくぐって、グラン・パレで毎年開かれる世界最大規模の写真フェア「パリ・フォト」を始め、パリの街中で繰り広げられる写真展を見て回る。

11月の上旬、パリの街は写真一色。私が京都でディレクションに関わっている「KG+」という新進気鋭の作家を紹介する写真フェスティバルが去年同様、パートナーイベントであるパリの写真フェア「フォトフィーバー」に出展した。
 

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

フランスの美術界には“OFF”と呼ばれる展覧会の形態がある。この概念は19世紀からフランスに存在し、今日ではメインストリームの作家を扱うオフィシャルな展覧会に合わせ、周辺で各主催者の趣旨によって自発的に開催される展覧会のことである。鑑賞者が集まる機会に相乗りするというわけだ。今回出展したフェア「フォトフィーバー」も「パリ・フォト」の”OFF”として7年前に始まり、若手の写真家を紹介するフェアとして認知されて来た。

春の京都には2013年からルシール・レイボーズと仲西祐介によって創設された「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」(国内外の著名な写真家の作品を京都の歴史的建造物を使って空間デザインとともに見せる話題の国際写真フェスティバル。新緑の古都のあちこちで写真展が開催される)があるが、「KG+」も「KYOTOGRAPHIE」の同時開催展覧会の集合体で、いわゆる“OFF”なのである。

パリの”OFF”「フォトフィーバー」と京都の”OFF”「KG+」がふとした縁で出会い、各々が設けている賞のファイナリストをお互いのイベントで紹介し合うパートナーシップを結んでいる。
 

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

さて、ここ数年、セシール・シャールが創設したこの「フォトフィーバー」の注目度がすごい。アーティステックディレクターのユキ・ボームガーテンと共に手がける“コレクターズアパートメント”と呼ばれるフェアの導入エリアが限りなくオシャレなのである。フェアの参加ギャラリーからチョイスした作品をデザイン家具とともに展示し、お手本のようにコレクターの部屋を再現している。
ユキはNY育ちの日仏ハーフで美術に造詣が深い両親の元で育ち、自身はロンドンのサザビーズで勤務経験がある生粋の目利き。彼女が見せるアパートメントのインテリアは、作品を購入し、どのように生活の中に取り入れるかをコレクション初心者にわかりやすく教えてくれる。
 

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

日本家屋しかなかった時代、「床の間芸術」が存在し、限られた空間に想い想いの掛け軸や生け花でデザインを施し、茶を飲みながら客人と共に作品を愛でる楽しみを私たちは持っていた。開国以後、西洋式の生活スタイルに傾倒したものの、一般市民レベルで手頃な価格の”美術作品を購入して自宅の壁に飾る”という西洋式の習慣まではまだまだ浸透していない。だからこそ、このようなフェアでの展示は私たち日本人にとって非常にお勉強になるのだ。
「コレクションを始めよう」というキャッチフレーズのもと、気軽に買える写真作品を素敵に飾る方法を身につける、又とない機会ともいえる。
 

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

今回、例年にも増して多くの来場者を迎えた会場は活気に満ちていた。「KG+」ブースでは今年のAWARDファイナリスト5人の作品に足を止めて興味深く見入る人々に、才能ある若手アーティストの発掘にこの上なく喜びを感じる私は心躍った。

今年、KG+AWARDグランプリを受賞した顧剣亨は京都に生まれ、京都と上海で育った弱冠24歳。普段から「utopia」というテーマで世界中の国々で特徴のない風景を撮影している。2つの文化を持つ彼の日本画のようで山水画のようでもある今回のシリーズはそれらの画像をピクセルで分解し重ね合わせ、コンピューターによるバグも手伝って非常に有機的なテキスタイルのように再構成されている。
他にも米国の航空産業廃棄物を彫刻作品のように捉えたシリーズ「CRASH」の杉山有希子、環境問題をテーマに繊細なアルミボードのプリントに仕上げた「Tangent」の木内雅貴、自らのルーツの断片を地理的にコラージュした賀来庭辰、トロントの路上で偶然遭遇したLisaとのディアローグを見事に写真で綴ったニコラ・オヴレーらの意欲的な作品が並ぶ。

来年、京都での「KG+」期間中にはフォトフィーバー・ヤングタレント賞に選ばれたリナ・ベヌウ、マルタン・ベルトラン、クロチルド・マッタの作品が紹介される。
 

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

フォトフィーバー  〜コレクションを始めよう〜

フォトフィーバー2018
2018年11月8日〜11日 於 カルーセル・ド・ルーヴル
http://www.fotofever.com/

KG+2019
2019年4月12日〜5月12日 (2018年12月31日まで参加アーティストを公募)
http://www.kyotographie.jp/kgplus/
 
 

Posted by Sae Cardonnel

Sae Cardonnel

▷記事一覧

京都教育大学 教育学部 特修美術学科 日本画専攻 卒業。日本画家、映画監督、文化イベント実行委員、現代美術ギャラリー、仏政府公式文化機関勤務等を経て2018年MUZ ART PRODUCEを設立。