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セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語 Posted on 2022/07/08 ルイヤール 聖子 ライター パリ

 
パリのセーヌ河岸、これはフランスにおける世界遺産の一つです。
登録対象はパリ中心部のおよそ8km。そしてその8kmの間には、ノートルダム大聖堂など中世の建築群がズラッと並んでおり、この街が辿ってきた歴史がギュッと凝縮されています。
セーヌに架かる橋も然り、この川にまつわるすべてのものが、守るべき存在として尊重されているのです。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語



 
ところで周辺の建物が左右対称形をしていることにお気づきでしょうか?
ヨーロッパ、特にパリではシンメトリーであること、均整のとれたデザインが美しいとされており、格式高い建築物・インテリアなどは必ずシンメトリーに作り込まれています。
完璧な左右対称形を見ていると、なんだか心のバランスも整ってくるようですね。

ただ「右岸」と「左岸」を比べてみるとどうでしょう。
この2つは、似ているようでまったく異なるものです。
それぞれにキャラクターがあり、風景やそこに暮らす人の毛色も違う。
セーヌの橋の中央に立っていると、そのアシンメトリーさを大いに感じるのです。
しかし右岸と左岸、このアシンメトリーをアンバランスとして捉えるのなら、そこにパリらしさがあると私は考えます。
不均衡の美や哲学、そういったものがパリジャンにはあるような気がしてなりません。

ではそんなアシンメトリーを繋ぐ、美しい3つの橋を渡ってみましょう。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
アレクサンドル3世橋は、パリで最も美しいと言われる橋です。
第5代大統領のサルディ・カルノーと、ロシア皇帝アレクサンドル3世との間に結ばれた友好の証としてロシア側からパリに寄贈されました。
アール・ヌーヴォー様式のデザインには全くもって見とれてしまいます。
ニンフ(川や泉を守る精)やペガサスの像があったり、ルネサンス期の提灯がついていたり…あまりの美しさに、渡りきるのに本来の2倍3倍の時間がかかってしまうほどです。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
当時の技術は「19世紀の驚異」と言われたそうです。
シャンゼリゼ大通りやアンヴァリッド宮殿の眺めを妨げることのないよう、美観を意識したデザイン。
夕暮れ時の息を呑むような美しさ。
一つ一つが緻密に設計されており、これには誰もが「さすがフランス」と唸ってしまうことでしょう。
 

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セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
さてルーブル美術館の方に歩いてみると、ポン・デ・ザール(Pont des Arts)が見えてきます。この橋は「愛の南京錠」で大変有名でした。
ですが愛の重さに耐えきれず、2014年には橋の一部が崩壊してしまいます。
全体の重さは象20頭分に匹敵するほどだったとか。
現在では透明のアクリル板に変わり、味気ないものになってしまいましたが(失礼)、柱にこっそり南京錠を掛けるカップルは今も健在です。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
ポン・デ・ザールは「芸術橋」という名の通り、アーティストたちが集う橋です。
週末に訪れればミュージシャンや大道芸人・詩人などが現れ、通りすがりに芸術気分を盛り上げてくれます。
橋の両サイドにはルーブル美術館や国立の名門美術学校、エコール・デ・ボザールの姿が。
左岸で美術を学んだ画家たちがキャリアを積み重ね、その作品が右岸のルーヴル美術館に納められているというケースは少なくありません。
ルノワールやドラクロワがそれに当たります。
ポン・デ・ザールは左岸と右岸のアートエリアを繋ぐ、まさに芸術の橋なのです。
 



セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
さらに東に進むと、今度はポン・ヌフが登場します。
名前の響きが良いですね。
ポン・ヌフは日本語で「新しい橋」となりますが、1606年に造られたパリで最も古い橋です。
こちらは車もガンガン走る、パリの大動脈。
400年以上もこの街の物流を支えていると思うと、なんだか感慨深いものがあります。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
ポン・ヌフの魅力といえば、やはり中州の「ポンヌフの庭」ではないでしょうか。
階段を降りれば小さな庭が広がっており、夏の間は芝生の上でピクニックなど、幸せな光景が見られます。
川沿いに腰掛けて会話に花を咲かせるカップルには、名画『ポンヌフの恋人』を思わず重ねてしまいます。
東京オリンピックでは閉会式のバトンタッチ映像にもこの場所が使われていましたから、フランスにとっても思い入れの強い庭なのでしょうね。
 

セーヌ川に架かる美しい橋、3つの物語

 
この3つが、世界遺産セーヌ河岸における象徴的な橋となります。
その距離はどれもたったの数百メートルしかありません。
しかしそんな短い距離の中には右岸から左岸、左岸から右岸への確固たる線引きがあるように思います。
「国境」というと大袈裟ですが、それほどに力強い、あるいは魔力めいたものをセーヌの橋には感じられるのです。

2024年のパリ五輪ではセーヌ川が開会式の会場となります。
普段はクールなパリジャンですが、こればかりは心の底から楽しみにしているようです。
2年後にはこの橋を含む、エネルギッシュな現地の様子が大々的に映し出されることでしょう。
 

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Posted by ルイヤール 聖子

ルイヤール 聖子

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2018年渡仏。パリのディープな情報を発信。
猫と香りとアルザスの白ワインが好き。