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仏政府が前向き、追跡アプリ「StopCovid」ってなに? Posted on 2020/04/14 Design Stories  

3月17日より2週間ずつ延長されてきたフランスの外出制限だが、昨夜のマクロン大統領の発表で5月11日まで、一気に4週間延びることが決定した。マクロン大統領は5月11日をターニングポイントと設定し、外出制限前を「以前」、そして5月11日以降を「以後」と名付け、以後の世界は新しいルールや生活スタイルが生まれることを国民に伝えた。

その「以後」の生活での第二次感染拡大を防ぐ代表的な対策として、症状のある感染者全てに検査(ウイルス保持者は隔離)、抗体検査の実施、市民のマスク着用などが挙げられたが、もう一つ、新型コロナ陽性患者との接触の可能性をユーザーに警告するアプリ「StopCovid」を導入する方向で議論していることにも言及した。個人の自由、プライバシーを重視するフランスという国で、このような追跡システム導入に前向きになるとは、ちょっと驚きである。



実はこのアプリ、3月末に内務相が「追跡はフランスには向かない」とし、導入の可能性を一度否定したが、4月に入り方向転換、保健相とデジタル・アジェンダ担当国務長官がこのアプリの開発と導入検討を発表していた。デジタル・アジェンダ担当国務長官は、「個人の行動を追跡するものではなく、スマートフォンから発する信号を記録するだけ」のものであると強調し、「利用者のプライバシーを尊重しつつ、ウイルスの感染の連鎖を特定すること」が課題であると語った。この方法は法律的にも欧州で設定されるeプライバシー指令に触れていないと付け加えている。

韓国ではGPS機能を使った新型コロナ感染者追跡、隔離監視アプリが導入されているが、フランスが導入しようとしているのは、シンガポールで開発されたものと同じシステム、スマートフォンのBluetooth機能を使って濃厚接触者を割り出すものである。このアプリは任意、匿名で展開されることになるというが、その気になる「StopCovid」とは一体どのような仕組みなのだろう。

仏政府が前向き、追跡アプリ「StopCovid」ってなに?

「StopCovid」をダウンロードし、スマートフォンを起動すると、Bluetooth機能が各デバイスの固有のIDカードとも言える信号を発する。その情報はアプリを起動している者同士がある一定時間接触した場合に記録され(記録システムに関しては未決定)、ある一定期間(おそらく2週間)保存されるらしい。そして、記録されている中の誰かが感染した時、感染者は感染をアプリに報告、すると、感染者のデバイスに記録されている人全てに新型コロナ感染者と接触した事実が報告されるのである。このアプリは全て匿名のため、「誰が感染したか」ということはわからない仕組みになっている。

GPS機能と違う点は、自分の行動が把握されることはなく、接触者のみをピンポイントで記録していくというところである。「任意」であること、そして、保管されるのが個人情報ではない、ということであれば、特に問題はなさそうだ。これから、ワクチンや治療薬が出てくるまでの間は、国民のそれぞれが感染しているかいないかを明確にしていくことがウイルス感染を最大限に抑える鍵となるため、このアプリはその強力な力添えとなるかもしれない。

しかし、このアプリ導入に対して、右派、左派を問わず、多くの議員が倫理的問題に限らず、技術的、政治的にもリスクが大きいと難色を示しており、「追跡は監視への扉を開く。リスクは無限大であり、安全という幻想のために自由を犠牲にはできない!」という厳しい意見もあった。

それでは、このアプリの問題点は何だろう。

まずは、接触する人同士がアプリを持っていなければこのシステムは成り立たない。この任意のアプリ「StopCovid」を60%から70%の人が所有していなければ、その効果を発揮できないのである。驚くことに、現在、スマートフォンを所有する約80%の人が「このアプリ導入を受け入れる」という調査結果がでているが、ただ、この調査通りになるとも限らない。フランスよりはるかに人口が少なく、デジタル化が進むシンガポールでは「StopCovid」と同じシステムの追跡アプリを導入するも、わずか20%弱のダウンロード率にしか至らなかった。その結果、シンガポールは感染者を封じ込めきれず、4月7日からロックダウンに踏み切っている。ロックダウンを先に経験し、不自由な生活から早く安全に自由になりたいと願っているフランス人とは精神的な面で差があるかもしれないが、実際にどれだけのユーザーを獲得できるかは始まってみないとわからない。

もう一つの問題は、このアプリが最も必要とされる高齢者のスマートフォン普及率である。フランスでその率は約40%で、政府はスマホ取得への支援なども考えているようだが、高齢者以外にもデジタルが苦手な人や嫌いな人がいるという点も含め、アプリ以前に、スマホ普及率の壁も高そうだ。

技術的な部分でも課題は残る。Bluetooth機能がどれだけ正確に機能し、距離を正しく測れるのかという問題や、例えば、背中を合わせたのか、面と向かって会ったのか、ウイルスが付着した表面に触れたのかということはこのアプリではわからないので、誤検知も多く、いきなり「魔法のアプリ」となるはずもない。

情報管理においては、現在、YouTubeのようなクライアントサーバーシステム、もしくは、Lineのようなクライアント同士が分散して繋がれるP2P(peer to peer)システムが考えられているようだが、いくら高レベルのセキュリティを備えることが可能でも、デジタル環境においてデータベースへの侵入や漏洩を100%保証することは不可能という現実も頭に入れておかなければならない。

このように、掘り下げて見てみてるとこのアプリの問題点は結構ある。安全が確証され、本当に効果的になるまでの道のりが前途多難であることは間違いなさそうだ。
フランス政府は、追跡アプリ「StopCovid」導入を感染者のスクリーニングやマスク着用の補完的な対策として取り組んでいくとしているが、これらの問題点をクリアできなければアプリ案自体が潰れる可能性も十分にあるだろう。果たして、5月11日にこのアプリは日の目を見るのだろうか。残す4週間、フランスがどれだけ信頼性の高いアプリを作り出せるのか、できたとして、自由を主張するフランス国民が本当にアプリを活用するのか。フランスにおける追跡アプリの着地点に注目したい。




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デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
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