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トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。 Posted on 2022/01/12 ムーケ・夕城 トリュフ栽培士 フランス・ドルドーニュ

日本ではキノコは秋の味覚ですが、フランスでは1年を通して季節のキノコを楽しめます。
3月になるとモーリユ茸(アミガサダケ)、5月になるとジロール茸(アンズタケ)が、6月、9月になるとセップ茸(ポルチーニダケ)、10月はトランペット茸(クロラッパタケ)が食卓を賑わせてくれます。これらの季節、雨上がり後の晴れ間が続く頃、誰ともなく森へでかけるのです。

診療所の待合室で居合わせた村長さんが「あったぞ」と言えば、それを聞きつけたご近所さんが子供の送迎用バス停で「あったみたいよ」とお母さん達に囁く。こうして、伝言ゲームみたいに「森へ行け」のメッセージが村中を走る。
これがトリュフとなるとそうはなりません。そこに高価なトリュフという存在へのビミョーな人間心理が見え隠れするのです。
 

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

地上に出てきたキノコは人間の目で確認できますが、地中に潜ったトリュフはいったいどんなサイクルを送っているのでしょう?
黒トリュフの周期は9ヶ月。日本では赤ちゃんが生まれるまで十月十日と言いますが、実際お腹の中にいるのは9ヶ月。トリュフも9ヶ月間母なる大地に守られ静かな産声をあげます。
トリュフが栽培士である産婆の手に取られて母なる大地から離れる時、大地も生みの痛みを感じるのでしょうか。
 

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。



トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

黒トリュフの王様、メラノスポロームは春生まれ。生まれたばかりのトリュフはミリメートル単位に小さく、暖かな気候と程よい湿度が必要です。この時期の遅霜はトリュフにとって命取りとなってしまうのです。

初夏になると、トリュフはヘソの緒を切ります。トリュフは宿木の根と繋がっていた菌根を切って細い菌糸だけで土の中の栄養分や水を吸収し始めるのです。
夏真っ盛りには、トリュフの大きさと重さは10倍にもなり、ほぼ市場に出回る大きさにまで成長します。この時期は人間でいえば思春期みたいなもので、まわりの影響を一番受けやすいのです。質も量も左右する時期。暑い夏に降る雨はトリュフ栽培者にとって願ってもない神の恵み。

フランスには、「二人のdames(婦人)の間に雷雨が降らなければ冬トリュフの収穫はない」という言い伝えもあります。二人のdamesとは聖母マリアのことで、カトリックで8月15日の聖母の被昇天と9月8日の聖母マリア誕生の期間のことを意味しています。この時期の雨がトリュフを急成長させ、地面にひび割れを起こす勢いなのです。
 

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

<ヘソの緒を切ったばかりのトリュフ>

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

<ひび割れ>

 
9月中旬から成長停滞期に入ります。11月から2月、成熟期に入りますが極寒でない冬を要します。夏の暑さがトリュフを成長させ、冬の寒さが成熟させるのです。この時点で初めて鼻腔をふわっと満たすあの魅惑的な香りが生まれます。成熟して初めてトリュフはその妙味を持つ。トリュフには四季が必要なのです。 

フランス南西地方の黒トリュフの産地ペリゴール地方では通常2月末で収穫を終えます。ある年、我が家の庭で3月初めでも自生トリュフがふんだんに採れる年がありました。

「まだ採れるからと言ってだらだら採り続けてちゃぁダメだよ。次世代を考えて地中に残しておかなきゃ。地中で腐ったトリュフはドロドロに溶けて母胞子になるんだよ」

友人のトリュフ栽培士からの忠告。ほぅ〜そういうものか、と感心したのを今でもはっきり覚えています。
 



トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

地上のキノコは胞子を飛ばしやすいようにあの傘形になりました。地中のトリュフは胞子を自分の力で飛ばせません。あの香りこそが拡散の手段。香りに惹きつけられた動物たち、夜行性動物、アナグマ、イノシシ、豚、などの大きな動物から、オオヤマネ、リス、うさぎ、ノネズミなどの小動物、ナメクジ、カタツムリなどの軟体動物、ハエなどの虫が寄ってきて胞子をくっつけてあちこちに分散してくれるのです。
トリュフを食べた小動物を鳥が捕まえ食べる。胞子は消化されないまま排出される。こうしてどこまでも飛んでいく。どこまでも飛んでいき運良く宿主となる木に出会えば自生するのです。宿木にとってもトリュフ菌との共生は生き延びる一手段であり、待ちに待ったハッピー感染なのです。

トリュフは地中に隠れた大胆な旅人と言えるでしょう。
 

トリュフの一生について。トリュフにも一生があったのです。

そして、編集部からのお知らせ。
2022年1月16日の地球カレッジは、ムーケさんが経営するトリュフ農園で、辻仁成が初トリュフ狩りに挑戦することに・・・。
ご興味のある皆さま、オンライン・ツアーにご参加ください。

ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。

この講座に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ

チケットのご購入はこちらから

※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。

 

自分流×帝京大学



Posted by ムーケ・夕城

ムーケ・夕城

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Yuki Mouquet
トリュフ栽培士
トリュフ園所有。トリュフ栽培協会会員。Best of Perigord主催。土やガラスを使った創作活動も行う。パートナーはフランス人ミュージシャン、ディープ・フォーレストのエリック・ムーケ。自宅スタジオにやってくる音楽関係者のレセプションも担当。2児の母。