PANORAMA STORIES

ザトウクジラと一緒に泳ぐ Posted on 2017/06/14 岡田 裕介 写真家 トンガ王国・日本

クジラと一緒に海で泳ぐ、そんな夢のような経験ができる場所があることを知っていますか?
世界でも数少ないその海は、南太平洋の島国トンガ王国にあります。

5年前、真っ青なトンガの海を圧倒的な存在感で優雅に泳ぐ美しい姿に魅せられてしまった僕は、毎年南半球が寒くなる季節をトンガ王国で過ごし、ザトウクジラと泳ぐ日々を送っています。
 

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

地球上で最大の動物と言われているクジラたち。
その中でもザトウクジラは回遊の移動スケールも大きく、南半球のクジラは夏の時期には南極付近で捕食して過ごし、冬になると子育てを目的に穏やかな海のトンガにやってきます。
その南半球に生息するザトウクジラは、北半球に生息する個体と違いお腹が白く、その白さと真っ青なトンガの海との組み合わせが実に美しいのです。

トンガに滞在する数ヶ月、僕の仕事はクジラウォッチングガイドとして乗船し、ゲストの方々をダイビングではなくシュノーケルでザトウクジラのいる水中の世界へと案内しながら、自身も水中カメラを持ち撮影しています。
 

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

ザトウクジラの行動は興味深く、毎日見ていても飽きることがありません。
息継ぎのために水面から潮を噴き出すブローと言われる行動、複数のオスがメスを巡って戦うヒートラン、ソングと呼ばれるコミュニケーションを目的としてクジラが発する一連の音(水中で出会えば体に振動が伝わるほど大音量)、体の3分の2以上を水面から出すほどの大ジャンプなど。

その中でも僕が一番好きなのは、休息と子育てのために同じ場所に留まり、ゆっくりと過ごしている親子の様子を観察すること。
そこで生まれたばかりの赤ちゃんは、将来親から離れて自立するために息継ぎの練習などをしてます。
練習をしながらも、好奇心旺盛なのは人間の子供と一緒。僕たち人間にも楽しそうに向かってくることもあります。
だからこそ、子育て中の母親は外からの刺激にとても敏感で、その様子を水中で観察、撮影する上で、クジラとの距離感や間合いの取り方がとても重要。驚かせるとすぐにその場からいなくなってしまいます。
 

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

まずブローなどでクジラを発見したら、驚かせないよう遠くに船を止めゆっくりと入水し、時には2時間以上も時間をかけて間合いを詰め、どこで止まるのが最善かを考えながら本当にゆっくりと泳いでいきます。
あるクジラはとてもおおらかで接近を許すような様子を見せたかと思えば、警戒心が高いのがすぐにわかるクジラも。
時には同じクジラに1日かけてゆっくりと間合いを詰め慣れてもらい、翌日再開して安心してもらったり。
一頭一頭個性の違うクジラの性格をしっかりと見極め、そのクジラにとっての心地よい距離感を見つけ、どの位置に留まればよいのかを考える。
そこには敏感な母親クジラを刺激しない、見えない境界線があります。

その見えない1本の線、すなわちクジラの世界と人間の世界の境界線を探り当てるのが、海でクジラと対峙する上で最も難しいところであり、ガイドとしての腕の見せ所なのです。
そして「僕らは君たちの世界を尊重している、安心してほしい」そんなことをクジラに伝えるのもガイドの役割です。
 

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

経験とそれに裏打ちされた勘が頼りの難しい仕事ですが、その境界線ギリギリまでクジラの世界に近寄ることができたら、きっと想像できるイメージを遥かに超えたスケールの写真を撮ることができるでしょうし、そんなガイドになって、ゲストの皆さんとも大きな感動を共有したいと思っています。

同じ地球上にこんなにも巨大な生物が生きていて、それを間近に感じながら一緒に泳ぐことができるなんて、子供の頃みた夢そのものの世界!
まもなく夏、今年もまたクジラとの数ヶ月が始まります。
 

ザトウクジラと一緒に泳ぐ

 
 

Posted by 岡田 裕介

岡田 裕介

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Yusuke Okada
自然と音楽を愛するフォトグラファー。
世界を旅する日々。