THE INTERVIEWS

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー! Posted on 2025/04/29 Design Stories  

フランスやイタリアで大変話題の漫画家、古屋兎丸(ふるやうさまる)さんに、パリ、オペラ地区にあるカフェバーで、インタビューをしました。
イタリアでちょうどサイン会などを開催された直後、パリ経由で日本に帰る短い時間に、海外でどのように自分の作品が受け止められているのか、など、漫画家、古屋さんの現在に迫ります。
印象的だったのが、
「辻さん、ぼくの作品ってすべての登場人物が死ぬんです」
という一言でした。
ぞぞっと、興味をそそられたので、欧州でどのような活動をしているのか、短いインタビューですが、まとめてみました。

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー!

※ 兎丸さんお代表作、「ライチ光クラブ」



「フランスの読者の反応教えてください。どういうところがフランス人に受けていると、思われます?」

古屋(敬称略)「今回初めて、フランス・グランパレで開催された「パリ・ブックフェスティバル(Festival du Livre de Paris、以下「FLP」)」に参加し、現地のファンの方々と直接お会いすることができました。驚いたのは、デビュー作から最近の作品まで読んでくださっている方が非常に多く、作品について深く理解してくださっていると感じたことです。
周囲の反応を聞いていると、『ライチ★光クラブ』ではキャラクター性の強さや、日本の昭和的な雰囲気のあるダークな世界観が特に支持されているようです。一方で『Marieの奏でる音楽』では、哲学的なテーマに惹かれている読者が多い印象を受けました」

古屋さん、おとなしい感じの青年に見えましたが、年齢的には、ぼくに近い世代の人で、YMOを聞いて育った、とのこと。
なるほど、顔がつやつやだ。

「そうそう、イタリアの漫画祭金賞、おめでとう御座います。イタリアとフランスでは、受け方が違います? また、日本の読者層や、読者の受け止め方とかについても知りたい」

古屋「Romics(イタリア・ローマで行われた大規模なポップカルチャーイベント)で金賞をいただき、大変光栄に思っています。国によって読者層はまったく異なります。
日本では『ライチ★光クラブ』を好む若年層から大人の女性が全体の9割を占めています。映画化や4度の舞台化といったメディア展開の影響もあるのかもしれません。刊行から20年近く経ちますが、ヴィレッジヴァンガードの書籍人気ランキングでは今も上位に入っていて、「中二病のバイブル」と言われることもあります。一方、イタリアでは読者の約8割が男性です。最も人気があるのは『Marieの奏でる音楽』で、次に32年前のデビュー作の『Palepoli』が続きます。フランスと同様に哲学的なテーマや、古典美術への関心が高いのかもしれません。フランスは日本とイタリアのちょうど中間といった印象で、読者層は男女半々くらいです。FLPでは、『ライチ』のコスプレで参加してくれた熱心なファンの方々にもたくさん出会いました」

「へー、日本とイタリアだと読者層が違うんだ。でも、確かに、ぼくもそうかもしれません。不思議ですよね」

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー!

※ パリの書店でのサイン会風景。

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー!



「どういうことに気をつけて漫画制作されています。苦労、喜び、やりがいなど、聞かせてください」

古屋「漫画のストーリーを考えたあとは、資料を集めたり絵に起こしたりするという地道な作業に入ります。
それはまるで、マラソンのような忍耐力が求められる工程です。
けれども、その道中で綺麗な風景が見えてきたり「もう半分まで来たんだ」と思える瞬間があったりもします。そして、すべて走り終えた後の達成感はやはり大きいです。30年間漫画を描いていると走り続けることにも疲れてしまうことがあるので、内容や絵柄、描く方法を少しずつ変えながら、自分自身が飽きないように工夫しています」

「フランスでの今後の展開、翻訳家のオルレアンさんや、出版社のブノアさんとの人間関係も、ぜひ」

古屋「フランスでも、まだ翻訳されていない作品を今後出版していただけたら嬉しいですし、現地での展開にも引き続き力を入れていきたいと考えています。IHMO(フランスの出版社、日本語ペラペラでした)のブノワさんは、日本のアングラ漫画に対してとても深く、そして広く愛を持ってくれていて、本当に心強い存在です。今回、通訳として初めてご一緒したオレリアンさんは、頭の回転の速さに驚かされました。人柄もユニークでとても魅力的な方でした。次にフランスを訪れる際も、ぜひまたご一緒できたら嬉しいと思っています」

「下北沢の野外教会をモデルにされた、と聞きましたが、日本のそういう少し不思議な場所が創作に与える影響について」

古屋「今回イタリアで初めて出版された『僕たちの心中』には、下北沢の野外教会や東京・吉原、青森の恐山といった場所が登場します。実際に、東京から鈍行列車で19時間かけて恐山まで行きました。移動そのものも含めて、そうした場所から得たインスピレーションはとても大きかったです。
現地で感じた空気や景色が、物語の流れを変えたり、あらかじめ考えていた台詞が思いがけず別の言葉になったりすることもあります。自分が実際に体験したことは、創作にとって本当に大きな影響を与えると感じています」

「今日はありがとう。気を付けて日本に戻ってくださいね。また、今度は日本で会いましょう」

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー!



古屋兎丸氏、プロフィール

思春期の揺らぎや人間の痛みを、独自の美意識で描く漫画家・古屋兎丸。
作品ごとにまったく異なる世界観を持ちながら、耽美さ、突飛なユーモア、そして愛ゆえの残酷さが共存するその表現は、国内外で高い支持を集めている。

これまでに、IMHO出版社からは以下の作品がフランス語で出版されている:
・『ライチ☆光クラブ』(Litchi Hikari Club)
・『マリィの奏でる音楽』(La Musique de Marie)
・『Palepoli』(Palepoli)
・『インノサン少年十字軍』(La Croisade des Innocents)
・『人間失格』(La Déchéance d’un homme)

不思議な漫画家、古屋兎丸さん、インタビュー!



自分流×帝京大学

posted by Design Stories