THE INTERVIEWS

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成 Posted on 2018/09/12 佐伯 幸太郎 ライター パリ

 
いよいよ10月4日、辻仁成がパリ日本文化会館大ホールにてワンマンライブを行います。歴史的劇場アルハンブラでの前回単独ライブから4年、辻仁成パリ公演を控え、いつもはインタビューアーでもある辻に逆インタビューを試みました。インタビューアは本誌でおなじみの食材輸入業者兼料理ライターの佐伯幸太郎です。悪友、盟友(?)佐伯が在パリ16年の辻仁成にインタビューを挑みます。ザ・インタビュー「パリで生き、パリで歌う男、辻仁成」
 

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

 
佐伯幸太郎(以下、「佐伯」敬称略) あのさ、なんでそもそもパリに来たの?

辻仁成(以下、「辻」敬称略) だから、その話は長くなるから、したくない。

佐伯 それじゃ、インタビューにならないよ。頼むから今日はおとなしく答えてほしい。俺もこのインタビュー引き受けたはいいけど気が重くて。だから、いろいろと勉強もしてきた。お前の過去の記事とかインタビューとかできる限り目を通してきたんだけど、毎回、言ってることが違うし、はぐらかしすぎだろ?

 その時その時で思いってのは変わるから別に嘘ついてるわけじゃない。結果的に、なぜパリに来たのかはよくわからない。もういいじゃん、俺はここにいるんだし、結果として息子と二人で意外とうまくやれてるんだよ。

佐伯 ま、あの子には確かに救われてるところはあるな。お前の友達はみんな言ってる。父親に似なくてよかったなって。

 あのな。ライブの話をしようよ。そういう話はしたくない。

佐伯 アルハンブラでのライブは離婚直後だったっけ? いや、その直前だな。あんな大変な時に、よくやるなって、思った記憶がある。その、言い方悪いけど、意地になってないか、って心配になった。だって、悪いけど、あそこは有名なフランスの歌手が立った歴史的な劇場でキャパも600席以上あって、普通簡単にライブできない場所、プロモーターもフランス人だったよな? 悪いけどこっちじゃ無名の辻仁成がアルハンブラでいきなりライブってちょっと驚いた。あの最悪な時期に、しかも、あの頃、お前、評判悪くて、いろいろとネットとかで叩かれてて、便乗してきて悪口言うやつとかいっぱいいてさ、友だちとしては胸が痛かった。

 だから、いちいち思いださせるなよ。

佐伯 (笑)

 でも、まあまあいいライブだったろ。そこそこ人も集まったし。

佐伯 ああ、お前が歌うの初めて見た。意外っていうか、ちゃんと歌いたいことを持ってるんだって思った。バンドの連中もよかった。ブラジル人のバンドだっけ?

 ああ、ロブソンというブラジル人がバンマスで彼の仲間たちが支えてくれた。彼がプロデュースして1枚アルバムを作ったことがある。

佐伯 暖かいライブだった。でも、痩せこけてたな。あの年での離別はきつかったろ?

 だから、その話に戻すなよ。ライブ、ライブ・・・
 

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

※上記2点、アルハンブラ劇場、2014年6月


佐伯 そんで、よく覚えてるのは引っ越しね。君、シングルファザーになった直後に、悲しむ子供のために環境を変えなきゃって引っ越しを決行するんだよな。離婚からわずか3か月後のことだ。よく覚えてる。完成したばかりのキッチン。あれ、全部自分一人で作ったばかりだったのに。デザインから材料揃えるのから2か月くらいかけて完成させたのに、さあ完成って時に・・・

 一人で作ってないよ。デザインはやったけど、作ったのは施工業者だった。

佐伯 料理好きの俺から言わせてもらうとあれは料理研究家辻仁成のすべてが注がれた最高のキッチンだった。離婚の直後にお前が友人たちを招いてパーティーやったじゃん。その時に食べたグーラッシュがめっちゃ美味かった。しかし、解せなかったのは前もって離婚すること決まってたなら、あんなもの作らなかったんじゃないのか?

 だから、その話はもういい。やりにくいんだよ。コンサートにかける思いを語りたい。

佐伯 キッチンが完成した直後に引っ越しだ。しかも、たった一人で全ての荷造りをやった。十数年も生きてきたパリでの思い出のすべてを段ボールにせっせと詰め込んだ。その時の心境をちょっとでいいから聞かせてくれないか。子供を学校に送り出した後、あれだけの荷物を一人でパッキングしながら、いったい君は何を考えてたの? 

 あのな・・・。

佐伯 俺はあの頃ちょうど忙しくてさ、手伝ってやれなかった。

 いや、前のアパルトマンの解約手続きで問題がおきた時に佐伯が通訳やってくれたじゃん。あれは助かった。それで充分。新しいアパルトマンを探してくれたのも昔からの知人だったし、滞在許可証や駐車許可証、住所変更などに付き合ってくれた友達らもいた。ただ荷造りと引っ越しだけは全部自分でやった。ライブと重なっていたし、子供の心のケアもあったし、結構大変だったかもしれない。でも、よく覚えてないんだよ。必死だったから、その、生きることに。

佐伯 まあ、その話はもういい。今度のライブについて話をしよう。

 あのな。
 

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

 
佐伯 息子君と二人暮らしになってから5年が過ぎようとしてる? このタイミングでライブというのはなんで?

 よく聞いてくれた。シングルファザーになって俺を一番救ってくれたのが音楽だった。小説や映画も続けていたけど、歌を歌ってる時が一番自然な自分でいられた。お前が言ったんじゃなかったっけ? ライブやれよって、もっと歌えよって。

佐伯 だったっけ?

 原点に戻ったんだよ。そこに音楽があった。最近、息子がユーチューバーになればっていいだして、2Gチャンネルをスタートさせたんだ。

佐伯 ああ、たまに観てるよ。いいね、あそこに辻の原点がある。モンサンミッシェルで歌った『故郷』が好きだ。

 あれも一人で車走らせてモンサンミッシェルまで行ってさ、一人でカメラセッティングして、一人で録画ボタン押して、カメラの前に座って一人で空に向けて歌った(笑)。歌ってると自分らしくいられることに気が付いた。

佐伯 今頃? (笑)

 ああ、いつだっていいんだよ。気が付けたんだから。そこで息子がその思いをYouTubeで発信したらいいのにって言いだした。いいアイデアだな、と思った。俺たちいつも夕飯の時に一緒にYouTube観てるからね。息子曰く、年齢は関係ない、やるかやらないかだけだって。

佐伯 あいつ哲学者だ。

 で、息子とはじめた。

佐伯 知っている、でも、もう奴は手伝ってない。

 そうなんだよ、けしかけただけで、今は遠くからクスクス笑いながら見てるだけ。時々、『パパは間違えてる。年配の人たちにむけて発信しているから登録者数が伸びないんだよって。若い人しかYouTube観てないから、視聴者をイメージしないと。自分にしがみつかないでもっと自由に若々しくやればいいのに』って(笑)。ま、正論なんだけど、俺は、それでいいんだって言っといた。若い連中にいまさらすり寄れるかって。

佐伯 いいね、いいね。そのうちお前のやってることを若い連中こそが面白がる。こんなファンキーなじいさんが日本にはいるって。

 あのな。結局、パリの仲間たちが手伝ってくれてなんとか10本ほどアップ出来た。

佐伯 続けるの?

 続ける。音楽は俺にとって最初の職業だった。でも、今は違う。生きるための糧だよ。音楽は自分を生かし続けるための心の支えなんだよ。もうCDで稼ぐ時代じゃないかもしれない。音楽はある意味フリーな時代に突入した。同時に俺は音楽が最初の創作の源だと気がついたんだよ。表現の初期衝動に戻ったんだ。自分を届けたくてはじめたミュージシャンに俺は戻ったんだ。それは素晴らしいことだ。この前、ECHOESのデビュー時のライブを聞いた。凄くよかった。やっと和解出来たって感じ。あの頃、歌っていたALONEという曲を最近また歌いだした。今の俺じゃないと歌えない歌なんだよ。聞いたか? 2Gチャンネルにアップしたばかりだから聞いてみてよ。

佐伯 聞いた。あれはいい。ただ、俺は歌手じゃないから本質はわかってないけど、お前が生き生きしているからそれでいいと思う。
 

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

 
 今年の10月4日にパリの日本文化会館でライブをやる。その日、59歳になるんだ。

佐伯 知ってるよ、誕生日にパリでライブって、なかなか経験できない。俺ももうすぐ59歳になる。俺は1960年2月生まれで学年は一緒だけど、辻の方がお兄ちゃんってわけだ。お兄ちゃん。

 (笑)きもいわ。

佐伯 どんなミュージシャンとやるの?

 ピアニストはエリック、ドラムとパーカッションがジョゼ、そしてギターと歌が俺だ。このスリーピーストリオでやる。

佐伯 いいね、いいね。どんな感じになるの?

 人生に悔いはないという感じかな。

佐伯 お~、いいね、いいね。

 ロックとフォークとジャズとシャンソンと全てぶち込んで音楽に国境なんかないって感じの辻流。在パリ16年の歴史を駆け抜けたい。楽しみにしておいてくれ。

佐伯 めっちゃ楽しみなんだけど、残念なことに、10月は日本でチーズとワインの会があっていけないんだよ。言い忘れてたわ。

 え? まじか?

佐伯 そういう落ちだ。でも、10月の京都でやる京都フィルハーモニーとのコンサートには行くよ。サンサーンスの『動物の謝肉祭』に、君が勝手に詩を作って朗読するっていうイベント。面白そうだな。ちょうど、京都で仕事があるから行ける。

 パリのライブ来ないの?

佐伯 寂しい?

 別に。

佐伯 じゃあ、成功を期待している。悔いのない50代最後の時を生き切ってくれ。
 

パリで生き、パリで歌う男、辻仁成

 
『辻仁成ワンマンライブ』
2018年10月4日(木)‪パリ日本文化会館大ホール!
 

10月4日は辻仁成の誕生日! そして、本ライブは日仏友好160周年ジャポニスム参画イベントになります。パリにお住いの方はぜひ、フランス人の音楽好きのお仲間とご一緒に、そして、日本からもぜひ、ステキな旅の思い出に、最高に楽しい一夜をお届けします。
チケットご希望の方は、以下のサイトよりお申し込みください。チケット絶賛発売中!

https://www.mcjp.fr/ja/agenda/jinsei-tsuji‬
 

 
 

posted by 佐伯 幸太郎