TPA校長奮闘記
校長奮闘記「78歳、全世界旅をしながらパリに立つ」 Posted on 2026/05/25 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
TPA校長の辻でございます。ぼくは今、パリにおります。一番大きな仕事が、今日、ございました。パリ国虎屋の二階を借りて、島本浣先生(78)の講義を収録したんです。
島本先生こと「かんちゃん」は、元精華芸術大学の学長で、西洋美術史の大先生です。4,5年前に現役を離れまして、今は奥様、たづこさんと二人で、「人生最後の世界旅」と銘打った全世界ツアーの真っ最中でございまして、なのに、ぼくが無理やり講師をお願いしたので、何と世界を旅しながら、寄港地寄港地で配信授業をやってくださっています。(第一回目は、パリの郊外のアーティストハウスから生配信をされました!)
かんちゃんは、(「先生とは言うな、かんちゃんと呼んでくれ」と言われたので僭越ながら、かんちゃん、と呼ばせて頂きます)、武勇伝の塊で、京大在籍中にたづこさんと学生結婚、お子さんが生まれました。世界中を放浪するのが大好きで、世界各地の芸術に触れてきた78年間だったようです。60年近く前の学生時代、インド一人旅では、文無しになり、お母さまが航空券を買って、速達でインドのかんちゃんに輸送し、何とか帰国出来た、という、ある意味、航空券を買って郵便で送るお母さんもすごいですが、インドで文無しになるような無軌道な人生を生きていたかんちゃんもすごいですね。武勇伝は実に島本先生を象る素晴らしい逸話ばかりですが、最後の武勇伝づくりのために、たづこ奥様と「人生最後の世界旅」に出た、という次第で、そのタイミングにぼくが講師を依頼し、二度と教壇には立たない予定をくるわせてしまったのであります。
今回の旅は、4月頭からスタート、パリ、ノルマンディ、ボルドー、スペイン、とまわって、現在、パリに短期滞在中でして、このあと、明日から、イタリアのシチリア、そして、南米に飛んで、チリとアルゼンチンに長期滞在をし、夏前に、日本に戻る、という、すさまじい、行程なのであります。このイラン戦争のさなかに・・・。


奥さまのたづこさんは書道家でして、二人で仲良く藝術を全うしようとされている姿勢にも、感動をしました。第一回目の授業はパリのアーティストハウスからやったんですが、久しぶりの講義だったこともあり、リズムがつかめなかった、と弱気になられておりましたし物忘れもあり、ご苦労されておりましたが、逆にぼくはとっても人間味を覚えることができ、やっぱり、経験と人徳だな、と思わされました。素晴らしい講師を迎えられたことを誇りに思いますし、なんとか、かんちゃんの本領を発揮してほしい、とパリで待ち構え、今回は収録させて頂きました。というのも、次回の授業が5月28日なのですが、この日、かんちゃんご夫妻は、シチリアにおります。電波状態がわからないので、まずはパリでメインの授業を収録させてもらい、現地からは、シチリアの空気感とイタリアアートの雰囲気をまず、ちょっと生放送してもらい、そのあと、パリで収録した講義を流させてもらう、という二段構えのスタイルをとります。そのあと、6月は南米のチリから、生放送をたづこさんと二人で(笑)やることになっております。南米のチリって、怖いイメージがありますが、この二人、恐れるものがありません。サッカーが大好きなかんちゃん、メキシコだったかで、サッカーの試合を観戦するのだそうです。息子さんがそのチケットを購入し、二人はそれを握りしめて、最終的にメキシコを目指すのだ、とか・・・。いやはや、すさまじいパワーですよね。
世界一の力を持つパスポートと言われている日本のパスポートですが、多くの日本人はパスポートも持ちません。もったいない話ですが、海外旅行がちょっと怖いという印象があるようです。でも、かんちゃん、たづこの二人組高齢旅人(失礼)に敵なしです。彼らのすごいところは、世界を恐れていないことです。英語や仏語やスペイン語が話せるわけではないのでしょうが、なんですかね、逞しいのです。たづこさん、めっちゃ若いんです。不思議なご夫婦。たづこさんはパリでも個展を開催されたことがあります。
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ぼくは、この二人が、TPA(帝京×パリ、オンラインアートカレッジ)にすさまじい刺激を与えてくださると思っています。次第に、エンジンがかかってきました。
今回の収録は、友人の野本氏のお店「国虎屋」の二階を借りて行いましたが、収録後、スタッフを含め、下で食事をしたんです。
「美味しい、美味しい」
と野本が作ったうなぎをご夫妻、頬張っておられました。よかったです。
そして、ぼくはかんちゃん先生と親しくなったんですね。すると、「人生最後の世界旅」をしているというのに、
「辻さん、今、決まりました。足った、今!これで最後の欧州旅と思っていましたが、来年、また、パリに戻ります。可能なら、ノルマンディに会いに行きます」
と言い出したんです。え? ぼくに会いに? あはは。すごい。
無敵の70代ご夫婦に気に入られ、またパリかノルマンディで再会が出来るなら、それは実に素晴らしいことじゃないですか。
「辻さん、ぼくはね、今まで目の前にいる生徒たちに教えていたから、目の前に生徒がいないこういうオンライン配信授業がどうもリズムがつかめないんだよ」
「かんちゃん、かんちゃんのクラスは、応募が多かったクラスの一つなんですよ、見えないかもしれませんが、たくさんの生徒さんがそこにいて、受講されています」
「ええ、ほんと、そうか、じゃあ、こんなぼくでも求められているなら、がんばらないとね。よし、まだまだ、がんばるよ」
と言ってくれたんです。
「85歳まで現役でお願いします!」
インドで、文無しになった経験を持つこの老師ですが、心はいまだ十代の青年そのものなんです。島本浣先生の本気はここから。
イタリア、フランスの西洋美術史の大専門家が、老境の旅の途中から、その土地土地の息吹を放つ熱血西洋美術講義、この機会に関わることが出来てありがたいです。
食事が終わり、ぼくはかんちゃんとたづこさんと握手をしました。無事に日本まで旅が続きますように、という念を込めて握手しておきました。こういう熱血日本人の遺伝子を受け継いだぼくらは、アートを通して今一度世界を見つめ直す必要があると思います。
島本浣の授業は5月28日です。えいえいおー。

※ 右が、たづこさん。素敵なマダムでございます。

そして、これが、きょうの鰻。下がお馴染み、野本。この足元の植物ですが、野本あてにパリ近郊に住んでいる日本の方から、ミョウガを送って頂きました。これが、こんなに育っているので、ノルマンディの土地に植えさせていただきたいと思います。



独り言&近況のようなもの。
ミョウガって、フランスでは売ってないんです。で、種からだと育ちにくいんですが、株からだとぐんぐん育ちます。ぼくの田舎で育てて、野本の店におろせるようになるといいんですけれど、かわいい花が咲くそうなので、楽しみです。
ひさしぶりの国虎屋、美味しくなっておりました。笑。若い衆が頑張ってる。あはは。
明日は、息子とランチをします。息子の成長を見守るのは親として大事なことです。世の中は、デマとか嘘のかたまりですが、根拠のないものに振り回されることなく、すくすくと育ってくれているので、親としては安心しています。どうぞ、静かに見守ってやってください。
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8月5日から11日まで、三越日本橋本店、特選画廊にて辻仁成展「鏡花水月」
10月22日から25日、パリのアートフェアに参加、コンコルド広場にて。
11月5日から3週間、リオンで個展。




