ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「充実とは何か」 Posted on 2026/05/09 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
知り合いがロンドンから来ていて、二日間、お世話をしておりました。笑。彼はぼくの絵が好きで、新作を見たいというので、こっそり、見せてあげたところ、大変感動されてしまい、買いたい、と・・・。一枚、予約が入ってしまいましたよ。個展に出す作品ですから、ゴメスに言わないと・・・。そのムッシュと入れ替わるように、明日、親しいパリ在住のフランス人ご夫妻が絵を見に来ます。結構、ショールームみたいになっている、アトリエです。昔の画家も、こうやって、絵を見せていたのかな、と思いました。
☆
ぼくのアトリエの周辺には、デビッド・ホックニーさんのアトリエがあったんです。ご近所さん。昔は、モネもこの辺で絵を描いていたし、ノルマンディ、いいところですよ。
さて、辻村相談窓口、開店の時間です。
☆
匿名希望Yさん
「辻さん、こんにちは。毎回、楽しみに拝読させてもらっております。私は、主婦なんですが、時々、働いています。編集の仕事をしています。子供はいませんが、2年ほど前に、退職してからはフリーランスの編集者をやっています。夫も同じ業界で働いていましたが、彼は完全にリタイアをしました。で、くだらない質問なんですが、これからどうやって生きていくのか、二人でよく話し合いますが、なかなか結論が出ません。その、参考までに、辻さんの人生の充実感について、お聞きしたいのです。どうやって、人生って、充実させていくのがいいと思われますか? 編集の仕事は面白いですし、フリーランスですから、嫌ならやらないでもいいのですが、それをしないと何も残らない感じがするんです」

おこたえしまーす。
☆
「充実した人生が=お金もあってめっちゃイケイケな感じということではないと思います。充実した人生を送るという場合、その人が幸福かどうかは、また別の話で、まだ何も決定していないような気がします。ぼくは、幸福を目指していますが、むしろ、充実した人生にある方が、幸福で満たされているよりも重要だな、と考えて生きています。ちょっとわかりにくいかもしれませんから、もう少し、かみ砕いて説明しますと、充実感というのは、いわば、幸福を目指したり、目標に達成するための「過程」を重視した時に生まれる感覚のことを言うんじゃないか、と。充実感というのは、そこへ向かう過程が十分にあって、ある程度、バタバタしている状態をぼくはイメージしています。でも、そのおかげで、やることがいっぱいあり、忙しいけれど、目標達成へ向かう感じが整っているような精神状態とでも言うんでしょうかね、そういうもの。一方、満足感というのもありますが、これは結果によって生まれてくる後付けの感覚なんですよね。ある種の評価によって、満足感というのは異なって来る。なので、ぼくが思う充実した人生というのは、まだ、満足には至ってない、成功も自己成長もしてない、目標も達成されていない状態にある自分なんだけれど、そこへ向かうために、やるべきことはわかっていて、頑張っている状態、だと思うんです。実はね、ぼくはずっとこの状態を選んでいます。
あはは。
☆
ぼくは、人間、達成されてしまって、なんか、偉い人になり、上がるというか、トップになって、定年退職を待つ、みたいな、感じを求めたことがないんです。人生の計画というのはないです。目標はありますが、かなりアバウトなもので、成功とかそういうのじゃなくて、こういう作品をこういう形で発表したい、とか、そういうものしかない、です。なので、上がる、という計画がなく、ずっと下積みを続けていたい、みたいな・・・。永遠の初期衝動人間でいたい、みたいな、感じですかね。おそらく、ぼくは絶対に巨匠と言われることがないんです。どんどんいろんな表現方法へ踏みだすので、文学の世界でも、先生と呼ばれたことほぼありません。ロックの世界でも鼻つまみものですし、つねに、かなりアウトローです。それ、でも、誰も気づかないんですが、ぼくの生き方って、かなりユニークでこれこそロックだと思っているんですが、ロックの人たちのシェケナベイビー的なロックではないわけです。ぼくのアートは孤高の芸術家がやるアートではないですし、ノーベル賞目指す大作家が取り組むような文学は全然関心がないからなんです。でも、自分にしか出来ない初期衝動をいまだに大切にもって、ゴールはないんですが、日々を自分らしく最大限厳しく楽しんでいるのが、辻仁成、という表現体になります。充実はしています。お金はたぶんあとからついてきます。貯蓄とか、株とか投資とかまったく興味ないですが、賭け事も一切やりません。でも、なんとか、好きなワインは飲めます。美味しいものも作れるし、もっとおいしくしようという野心は半端ないです。これは成功ではなく、充実感です。もし、この先に、満足感が待ち受けていたとしても、ぼくはすんなり、そこには行かない気がします。たとえば、何かがヒットした時に、同じものを追わない。だから、絵も音楽も小説も毎回手法が異なる。自分のコピーをし続けて大先生になって、何が面白いのか、というのが、ぼくの哲学だからです。あはは、えらそうですいません。でも、常に初心を忘れないので無邪気に創作を続けています。楽しいです。いまだに、文学も続けていますが、ぼくを批判した人たちはもう見当たりません。でも、ぼくは、まだちゃんと情熱をもって書き続けています。それが、ぼくが思う「充実」というものです。ぼくにも終わりは来るかもしれませんが、「あとちょっとだったのになー」と苦笑いを浮かべながら、旅立てれば、最高じゃない? 笑って、前進をしましょう。あなたが編集者ならば、一度、一緒に仕事が出来るといいんじゃないですか? しましょうよ。ぼくは人をたきつけるのが得意でもあります。えいえいおー」

8月5日から、いよいよ、日本で個展がスタートします。三越日本橋本店、特選画廊で、11日まで。63点、堂々の展示、予定です。祈る。
10月22日から、コンコルド広場のアートフェアに参加。15点くらい。
11月5日からリヨンで個展です。45点程度、詳しくはまた、のちほど。
11月8日、パリのカフェドラダンス、という大きなライブハウスで、フランス人バンドとの対バンライブが正式に決まりました。チケットなどが出たら、また、お知らせします。
☆
そして、父ちゃんの音楽ですが、tunecoreで1000万回再生、達成。たまには、元気が出るだけの音楽とか、いかがですか? こちらをクリックね。
☟
https://milestone.tunecore.co.jp/milestones/LeYwbu7hEfgPWl7dPcp7?category=artist_ugc_play_count




