ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「記憶にない記憶」 Posted on 2026/07/21 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
はい、バタバタしておりますが、辻村相談窓口を開きたいと思います。
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匿名希望Gさん
「辻さん、日本なんですね、おかえりなさい。そして、いよいよ、個展ですが、地方から見に行きたいと思っています。初日5日の午前中は入場制限があるということなので、昼過ぎに行こうと思います。すいません。さて、どんな思いで創作されてきたのか、どのような作品が並ぶのか、想いといいますか、辻さんのこの個展で伝えたいことなどを、少し教えてもらえたら、観に行くうえで、すごく参考になるので、うれしいです」
おこたえしまーす。
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「はい、日本です。ただいま~。クーラーがあるって、こんなに過ごしやすいんだって、あらためて普通のことだったのに、いま、感動しています。フランスは呼吸もままならない熱波でしたからね、思いのほか、毎年暑いと思っていた日本がやたら涼しく感じられて、笑。
さて、いよいよ個展ですけれど、今回の作品は、一作品以外、すべてノルマンディのアトリエで制作をした作品になります。(一作品だけ、パリのアトリエで描いた左岸地区の飲み屋街の絵がありますが、記憶のネガシリーズに入っています)
幾つかの分類がありまして、「鏡花水月」「夢幻泡影」「ソラノキモチ」「ノルマンディ情景」「心静如水」「記憶のネガ」など、に大きく分類されます。(分類されてない単独のものもありますよ)
ノルマンディで掴んだ境地ごとに、別れています。ぼくは、デッサンをしないので、まず、キャンバスに文字を書いて、言葉の根っこからイメージを受け取り、描きだす手法なんです。天空から、降りてくる感じ、あはは、でも、そうなんですよ。写真をご覧ください。これは、画学生が上からこっそりぼくの仕事風景を撮影していたものですが、キャンバスの前に座し、瞑想というか、浮かんでくる言葉を捕まえて、描いているところです。ここから、「夢幻泡影」作品4枚が生まれました。不思議ですよね。
えいえいおーって感じなんです。まさに・・・。

辻仁成個展『鏡花水月』は、日本人の心の深部に潜む「もののあわれ」をベースに、一年の歳月をかけて紡がれた作品群の展示となっています。これは、ぼくが、画廊の方々へ個展の中身について説明した文章になりますが、ちょっと読んでみてください。
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全作品63点のうち、62点は、ノルマンディにあるメインアトリエで描きました。パリを離れ、ノルマンディの大自然の中で、自身の66年の人生を振り返りつつ、日本とフランス、たゆたう二つの国の記憶を辿るように作り上げた詩的な宇宙と言えるでしょう。
人間の遺伝子とは、祖先から脈々と受け継がれてきたものであり、その遺伝子には、自身の記憶にない記憶が影響しているように思います。ぼくはそういう、遺伝子の中に刻まれた風景を描いてきました。先祖が見ていた太古の原野の光景を、遺伝子の中に眠る記憶を辿るように、ここノルマンディという地の影響を受けながら、キャンバスに紡ぎ続けています。日本人でありながら、エトランジェ(異邦人)としてフランス西部の小さな村で生きるぼくにしか描けない世界をぜひご覧いただきたいのです。
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アトリエ前に広がる原野の水たまりに映る月の揺らぐ光りを通し、私は先祖が見ていただろうあの日の光り、そして、悠久の記憶の風景を重ねているのです。自然、光、記憶、もののあわれ、が交差します。
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文章にすると堅苦しいですね。言葉は窮屈だから、しょうがないです。この文章だけでは解決できないこともあるんです。たとえば、このフランスに渡りすんだ頃、サンジェルマンデプレ界隈を歩いたら、涙が出てきたことがあって、古い記憶が揺さぶられたんですね。そのことを知人に話したら、辻さんって、フランス人だったってことですか、と言われたことがあって、そんなわけはないですものね。でも、遺伝子のレベルとは別に、魂のレベルでの交差もあるような気がします。そういうものを全部ひっくるめた話なんじゃないか、と。ぼくの絵には、日本的なもの、西洋的なものが混在しますが、スケッチなどはしていないので、だいたいが「記憶にない記憶」から生まれてきているんです。そういう作品ばかりです。説明出来ないんですが、説明する必要もないですよね、作品がそこに確固として存在するわけですから。ぼくの魂の奥に眠る「記憶にない記憶」の悠久をぜひ、見に来てください。皆さんにとっても懐かしい世界が広がっていると思いますので・・・。不一」

辻仁成展「鏡花水月」、三越日本橋本店、6階、特選画廊にて、8月5日から11日まで、開催いたします。基本、辻は、今個展では、頻繁に顔を出したいと思っています。ゲリラ的に・・・。ゲリラ辻です。よろしくお願いいたします




