ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「夫が苦手」 Posted on 2026/08/26 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
早速、相談窓口を開かせて頂きます。
今日はちょっと返答に困る内容でした。笑。
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匿名希望Bさん
「私は夫が苦手で困っています。こんな個人的な相談で恐縮ですが、逃げ場所がないので、お聞きください。夫との会話はもうほとんどありません。そればかりか、二人で旅行に行くこともありません。子供が3人いますので、離婚は考えましたが、子供たちが成人するまで待とうと思って何とか頑張って来たんですが、下の子が成人をしたというのに、まだ踏み切れておりません。苦手といいましても、限りなく、嫌いに近い苦手でして、アレルギーという言い方も出来ますね。子供たちが集まって食事をする時も、私は夫から遠く離れていますし、二人で食事をすることはありません。夫はゴルフ仲間がいまして、いつも彼らとつるんで楽しそうにしています。私は息子夫婦と仲がいいので、彼らと夏は旅行に出かけます。夫は子供たちからも敬遠されており、でも、そういうことに関心がないのか、びくともしません。なので、もう、ずっとそこにいるのにいない影法師のような存在なんです。離婚届けは何度も書いたのですが、もう別にいいのかな、と諦めています。辻さんに、こういう質問をするのは失礼と思ってあえて、ちょっと角度を変えて聞かせて頂きますが、どうやって、この状況と折り合えば楽になれるのでしょう」

おこたえしまーす。
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「なんといえばいいのでしょうか。しかし、奥様のような女性はぼくのまわりに結構います。そして、ご主人と今も仲睦まじくされている方も、同じくらいいらっしゃいます。その違いに理由はないように思います。たまたま、うまくいかなかったのです。そのまま、ずるずると年月が過ぎたのでしょう。ぼくのように離婚経験者がえらそうなことはいえないのですが、ぼくは辛かった日のことよりも、今は、幸せだった頃のことをよく思い出します。不思議ですが、ぼくのような愚か者でも、こうやって一人になってしみじみ思うのは、人生の中で、悪かったどん底の日々ではなく、陽だまりのような、なんでもなかったけれど、平凡な日常、の記憶です。心に焼き付いて離れない時間のことを思い出すんです。離婚間際はとってもつらかったので、そっちの方が心に焼き付いていると思うじゃないですか、でも、時が流れて、いろいろとあって、子供も大きくなって、昨日まで我が家に泊まりに来ていたんですが、彼らが帰って、愛犬の頭をさすってやっていると、ふとこんな自分にも幸せだった時があったな、と思い出すんです。人間ですから、思い出すのは普通でしょうけれど、苦しかったことはなぜか消え去っているんですよ。それで、今のご相談の最後に、どうやって、この状況と折り合えば楽になれるのでしょう、と書かれてありましたので、ま、明確な回答は出来ないのですが、ぼくは失った後、しばらくたって、こういう感じを大切に持って生きている、とお伝えしたいのです。後悔もたくさんありますが、ぼくの中で生きている思い出を追い出すことはしたくないんです。辛いことや苦手な感情ばかり抱えていると、苦しくなりますからね、自分を楽にするのに、ぼくの場合ですが、苦しみの中にあっても幸せだったものだけをかき集めて、それを掌に載せて抱えて生きていきいたいな、と・・・。ぼくもどこにも誰も連れて行ってくれませんよ。この夏はずっと仕事でした、その前の春も、その前の冬も、最近はずっと休暇ってないです。そこに息子がやって来ると、けっこう、緊張して向き合っています。どっちかが昔話とかしたら、緊張が走りそうですからね、でも、そういう野暮なところに、話は向かわないんですよ。仕事が大変だ、と息子がいい、無理するな、とぼくが言います。成功よりも幸せを目指してほしいなー、と父は言うと、息子は、うん、と頷きます。以上。そういう時間が流れていましたが、あの子の背後には、幸せだった頃の夕焼けが見えてました。こんな回答じゃ、なんにも答えになってませんね、でも、答えにくいご相談だから・・・、さらッとはぐらかしておきましょう。
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でも、奥様、あなたには、ご主人がいるじゃないですか、もしかしたら、声をかけられることを待っているかもしれませんよね、心のどこかで、知りませんが、笑。
多生の縁、と昨日の日記で書きましたが、お子さんが三人もいて、袖振り合ったわけで、そこには、前世とかでの深い縁があった、と仏教では言われています。苦手な時期も会って普通です。来世で、また出会う可能性が高いですよね。次回は、ご主人、あなたのお子さんになっているかもしれません。そう考えると、愛おしくなりませんか? 小さな声でえいえいおー」

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父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
家族のことを書いた小説が、9月4日に発売となります。子供がつなぐ若い夫婦の愛の物語です。ぼくが描く小説なので、変わった世界ではありますが、ぜひ、書店で手に取って貰えたら、幸いです。
新刊「泡」集英社から、発売。
10月22日から25日まで、パリのコンコルド広場で開催されるモダンアートフェアに、父ちゃんの作品が12点、並びます。
11月5日から、リヨンで個展を開催。3週間あります。
11月8日は、エバーマインズとパリのカフェ・ド・ラ・ダンスで、対バンします。
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