ノルマンディ、ツジ村便り
相談窓口、「後悔の念に苛まれた時に」 Posted on 2026/10/29 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
久しぶりですが、相談窓口を開きたいと思います。
忙しくて、相談がたまっていますので、そっさく、まいりますね。
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匿名希望Hさん
「辻さん、相談というほどのものではありませんが、お聞きしたいことがあります。辻さんはどんな時に、後悔について頭を悩ませ、どんな風にそれを解決しようとされていますか? 」

おこたえしまーす。
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「後悔というものは、何歳になっても、なくなりませんね。よく、後悔の念に苛まれる、というのを聞きますが、「後悔の念」というのは、過去に自分がとった行為を後から悔やんで、なんであんなことしてしまったんやろ、もっと他にやり方はなかったんかいな、などと自責にかられることです。後戻りできない時間の流れの中で我々は生きているわけですから、後悔というものは、永遠に続くことになる。それが人生というものだ、と割り切らないとやっていけません。
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さて、ぼくの話になりますが、ぼくが後悔の念に苛まれるのは、だいたい、細かい作業をしている時だったりします。アトリエの裏庭の雑草を抜いている時とか、お米を研いでいる時とか、高速道路のまっすぐな道でとか、頭を使わず、何かに没頭している時なんかに、ふつふつとわいてくるんですわ、後悔、というものは・・・。特に、雑草を無になって抜いている時に、不意を突くような感じで、出てきます。たぶん、ぼくだけじゃない気がします。忙しい時には出てきません。単純な仕事をしはじめると、思い出すように、にょろにょろと出てくる。だからですね、その程度のものだ、と思えばいい。抜いている雑草と一緒に、記憶から引っこ抜いてやりましょう。
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それと、だいたい後悔というものは、「なんであんなことになってしまったんだ」という過去の反省から成り立っているわけですが、そんなこと今、悩んでも、「取り返しがつかない」わけですもんね。なんであんなことになってしまったんだ、何が悪かったんだ、なんであんなこと言っちゃったんだ、誰のせいなんだ、あいつらだな、あいつらのせいであんなことになったんじゃないか、とうらみつらみもついでに出てきます。雑草はどんどん引き抜かれていきます。あの野郎、許せねー、と途中から頭がカッカしてきて、そのおかげで雑草は消え去ります・・・。笑。
ところがですね、みじめになるんですわ。あー、くだらない。腰をのばして、青空を見上げると、太陽が笑っていたりします。雑草を抱えて、ごみ箱の中に放り投げ、「ひとなり、未熟やなー」とさらなる反省が出現します。ぜんぜん、参考にならないお話で申し訳ありませんが、いつも偉そうに相談所長をやっているぼくですが、何年生きてもめっちゃ人間臭い。うらみつらみも消えません。だから、「ちいせーなー」と自分に言い聞かせて、太陽と一緒に大笑いをするようにしています。だってね、後悔しても、解決策なんかないんですから・・・。要は、人間が生きている上で後悔はなくならないように出来ている。人生と言いますが、実は、後悔こそが人生です。生きている限り、いろいろと降りかかってくる。無傷で死ねる人間なんかいません。だから、ぼくは後悔の念に苛まれた時は、ぶつぶつ言いながら雑草を引き抜くことにしています。能率がいいんです。どんどん引き抜けますから・・・。過去があるから今がある。そして、自責の念にかられるから、未来をよくしなきゃ、と思うこともできる。「ちいせーなー」と自分を笑い、背筋を伸ばして、明日からまた精一杯生きたりましょう。いいじゃないですか、後悔の10や20、誰にでもあるもんです。反省や後悔やうらみつらみと一緒に生きていこうとぼくは思っていますよ。取り返しがつかないものが歩んできたぼくの道のりであるならば、そこもリスペクトして、明日につなげてまいりましょうか。はい、小さな声で、えいえいおー」

父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
うちの92歳のかあさんですが、ごらんください。92歳で、はじめて本を出します。といっても、戸塚刺繍協会内だけの非売品です。「バラの辻」と言われた刺繍の達人は、92歳ではじめて本を出すのですから、これって、すごいことですよね? 生きていればこういうご褒美にも出会えるわけです。92歳でも、本が出せる。戸塚の先生たちの手に渡ることになるのでしょうが、92歳ですからね、もう、そこまで刺繍を愛し続けた辻恭子史の金字塔でもあるわけで、これはバラ刺繍のバイブルになるのかもしれませんね・・・。ちなみに、ぼくが一文を書いています。プロデュースは、弟の辻恒久です。恒久、ありがとう。前回、福岡に戻った時に、みんなで表紙の写真を決めたり、いろいろと話し合いました。92歳の初版本、素敵ですよね・・・。一般発売しないのは、本当に勿体ないですが、戸塚刺繍の皆さんに大切に持っていただければ、母の本望だと思います。



