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リサイクル自分流塾「自分に自信をもたせるための秘策」 Posted on 2024/01/28 辻 仁成 作家 パリ

「自信がない」と人が言葉に出す時、その人の「自信がない」が決定してしまう。
このことをまず、頭に入れて頂きたい。
自信というのは自分を信じる力なので、自信がない、と呟いた瞬間に、自分は負けて、自信を放棄してしまってることになる。
それは同時に、自分を構成する細胞たちの戦力を喪失させてしまう、魔の呟きなのである。
自分の能力にある種の疲れを感じたら、「大丈夫、ぼくは絶対負けない」と言い続けることがまず、大事だ。
「自信がない」などという言葉は心の辞書から消しさってしまう方がいい。
その上で、自信を持つために、ぼくが若い頃によく実践してきた方法について、書かせてもらいたい。
最近は、やらなくなったが、20代、30代、まだ自分が何者かわからない存在だった頃、つまり、何一つ世界に対して自分のことをアピールするものがなかった頃に、やっていた自己発奮の方法というのがある。



ぼくは若い頃、ミュージシャンを目指していた。同時に、小説や映画のシナリオを書いていた。
しかし、当然のことだけど、自分は、いまだ何者でもなかったし、世界はまだぼくを発見していなかった。
こういう前提の中にいる自分には、当然、結果というものがないので「ほんとうにやれるかどうか分からない」のも事実だった。
だから、「自信はあった」が不安定な自信でもあった。
そこで、その不安定な自信を安定させるために、「1人インタビュー」というのをよくやった。
どういうものかというと、まず、部屋の明かりをけし、椅子を持ち出し、鉛筆を握りしめる。鉛筆はマイクを想定している。
ライトがあれば、点けよう。自分に向けておくのが効果的であろう。
光の向こう側に、インタビュアーがいる、とイメージしよう。
有名なニュース番組の司会者さんをイメージするのがいい。
その人が質問を始める。
「あの、辻さん、今回はいろいろとおめでとうございます。ここまで大変な道のりだったと思いますが、そこに至るご苦労話などから、お聞かせください」
するとぼくは、思い出すふりをしながら、頬を緩めてみせる。
「ええと、そうですね。簡単ではありませんでした。アルバイトをしながら、創作をしていましたから、遊ぶ時間もなく、でも、創作は好きでしたし、手ごたえはありましたから、いつかこの作品が多くの人の心をとらえるというのはわかっていました。疑ったこともありません。自分は必ず出来る、と言い聞かせていましたからね」

リサイクル自分流塾「自分に自信をもたせるための秘策」



この笑っちゃいそうなインタビューは、しかし、真剣にやらないとならない。
まず、それが重要なのである。
つまり、今やっている「箸にも棒にも掛からぬ可能性のある作業」が、将来、大きく実ったことをイメージすることが大事なのだ。
そこから逆算をして、その経過を語る。
それは実際、苦しい今の自分の気持ちなので、直に言葉にできるはず・・・。
今の頑張りは無駄ではなく、必ず、大きな結果を連れてくるのだ、というイメージを生む。
そして、小一時間、この「一人インタビュー」を続けているうちに、次第にやる気が増幅し、自己発奮させられていくのである。
次第に、高揚し、若い頃のぼくはインタビューも終盤に差し掛かる頃、すっかりやる気になっていたし、すでに勝利しているような感じになっていた。
思い込みも大事である。
やる気で体が熱くなり、そこでインタビューは終わるのだけど、
「今日は、辻さん、ありがとうございました。期待しています。頑張ってください」
と締めくくり、部屋の灯りを点けるとそこはアパートの一室・・・。笑。
しかし、ぼくだけが見違えるように輝いている、という寸法なのである。
ぼくは若い頃、自信がなくなる前に必ず、「一人インタビュー」をやることで、なんとか、不安定な未来を手繰る寄せることに成功していた。
しかも、一人インタビューの直後は仕事が捗る。本当です。
「自分を盛り上げる天才になろう」
これはぼくのスローガンだけど、若い頃にやった「一人インタビュー」がその起源なのである。
今日あたり、部屋の灯りを消して、やってみようかな・・・。
「誰の人生だよ」
とぼくはぼくに言い続けている。これがぼくの口癖だ。
一生は一度しかない、自信を喪失している暇などない。

自分流×帝京大学

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。