日々のことば
自分流・日々のことば「邪気から遠く離れて」 Posted on 2025/05/25 辻 仁成 作家 パリ
おつかされまです。
いつも思うことなんですが、ほんとうに、悪いやつとは、告げ口をしに来る人間のことじゃないでしょうか?
悪口を言った人よりも、それを言いつけにくるというか、話を盛ってチクってくる人というか、言いふらす人物・・・。
なんでか、そっちの方が罪が重い、と思う今日この頃です。
ぼくも、よーく悪口を言われますが、
「辻さん、あの人が辻さんのこと、こーんなに悪く言うてましたよ」
と言いつけにきたり、
「なんか、噂で聞いたんだけれど、最近、あなたぜんぜんダメなんでしょ。みんな言ってるわよ」
とか、わざわざ言いに来るおせっかい人。
でしゃばりというか、おせっかいを通り越して、もう悪意しかないような人、多いんですよね。
「私はあなたの味方よ、だから、心配して言ってるんだから」
あー、いやだ。身の毛がよだちます。
そのせいで、親しかった人が勘違いをして、逆恨みというものを買わざるを得なくなったり、喧嘩に巻き込まれたり、おかしなレッテルはられたり、実に、ひどい話なのです。
人間不信にもなりますね。
じっさい、悪口の数より、それを拡散している人の数の方が多いのがこの今の世の中なんじゃないでしょうか?
味方のふりをして、裏で暗躍をするおせっかい人たちをどうやって見分け、どうやって排除していくのか、が生きる上で、とっても大事なことになりますね。
人生は、そういう妨害者たちから離れてこその、穏やかなのです。
そのためには、友だちをやたら作らないことかな、と思います。
え、そうなの、と思うかもれませんが、友だちだと思っていた人間に裏切られる時って、もっとも辛いんですよ。
そもそも人はまやかしの笑顔で近づいて来ることが多いので、あの人はいい人だ、と決めつけるのは危険なのです。
ま、みんな本当の顔をさらけ出すまでわかりません。
ショックを受けるくらいなら、友だちという名の知り合い、くらいに思って付き合っていくのがいいでしょう。
寂しい話ですけれど、悪気がない友だち、くらい厄介な存在はありません。
常に、どこかで、思いもよらない人間の裏切りにあうこともある、と警戒して生きていくことも大事です。
うまくいかない人たちは誰かの足をひっぱりたくてしょうがないわけです。
でも、そんな邪気のかたまりに振り回されてばかりはいけません。
ほんとうの友だちなんて、生涯に一人で十分ですよ。
ぼくが生涯、名刺を持たないのは、そういう理由です。
みんなが離れていった時に、そっと手を差し出してくれるほんとうの友だちが一人いたら、いいじゃないですか。
その手を強く握り返しましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「悪口は邪気のかたまりだから近づくべからず」
25日は、ラジオです。朗読などをやっています。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。