日々のことば
自分流・日々のことば「敵と味方」 Posted on 2025/05/30 辻 仁成 作家 パリ
おつかされまです。
ことわざに「昨日の友は今日の敵」というのがありますね。
親しくしていた者が不意に敵になることのたとえであります。
長く生きていると、こういうことが、まま、あります。
で、ある時、ぼくはこのことわざを逆手に取るようになったのです。そして、辻流のことわざを作りました。
それが、
「敵を味方にしてこその勝利」
ということば・・・。
若い友人たちに、このことばを教えますと、みんな、なるほどー、と頷いてくれるのです。
どういうことか、と言いますと、敵って、そもそも、ぼくのことが邪魔な人たちなんです。
ぼくが憎くてしょうがない、邪魔な人達。
様々な理由でぼくを目の敵にしている連中ですが、そういう人は、意外と、表に出てこず、背後から、あらゆる手を使って攻撃してきます。
あいつは敵だな、と思って、こっちも攻撃をしてしまうと、実は、お互い得にはなりません。
そこで、そういうやっかむような小さな人間の心を掴んでやり、尊敬される存在になったらいいんじゃないか、とぼくは考えたのです。は?
「辻さん、そんなこと、出来ますか?」
若い友人たちが、首を傾げます。
普通はできない。
でも、もし、仮に、凄い敵を味方に出来たら、どうなるか、想像をしてみてほしいのです。
ストレスがなくなり、追い風が吹くでしょう。
昔、ぼくのことが大嫌いな人がいました。
仮にAさんとしておきましょう。笑。
A氏はことあるごとにぼくの批判ばかり、していたんです。
それが、ねちねちとしたつまらない批判でして、正直、お粗末なものでした。
もちろん、反撃することもできましたが、身も蓋もない非難合戦で摩滅するより、ぼくはあえて、言動をつつしみ、創作に注力をし、無視したわけではないですが、やるべきことをコツコツやったわけです。
簡単なことではありませんでしたが、くだらない言い合いよりも、生産的なことに注力して、評価をあげていくことに集中したというわけです。
ある時、A氏とバーでばったり隣り合わせになりました。
怒鳴り散らしてもよかったのですが、黙って酒を飲んで、堂々としてやったのです。
すると、A氏から、「最近、あなた頑張っているね」と切り出されました。
この変化を、逃したら、阿呆です。
「Aさんの批評で奮起したのだよ」と言ってやったわけです。ま、ウソでもないし、おだてたわけでもないのだけれど、年上の人でしたからね、そこは、一定の敬意を示しただけです。
すると、気をよくしたのか、この人からの攻撃はなくなり、むしろ、ぼくを褒めるようになったわけです。
ぼくはその人が書いた文章を読んで、「敵を味方にしてこその勝利」という言葉を思いつきます。
若い人にこのことを教えますと、なるほど、いいですね、マネしてみます、と言われました。
「いっとくが、簡単じゃないよ」
笑。
しかし、こういうことが通じない唐変木もたくさんいるので、そういう時は、もう思いっきり罵倒しちゃってください。
「やる時はやる」
というわけです。
さ、今日も精一杯生きてください。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「敵を味方にしてこその勝利」
大切なお知らせ。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、出没するかもしれません、
7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、出没するかも、
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。
☟
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。