日々のことば
自分流・日々のことば「礼節とは」 Posted on 2025/06/04 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人間というものは外見ではわからないものですね。
個人的にどういう人間が苦手かと申しますと、ま、礼儀のない、もしくは礼節が欠けた人間でしょうか。
礼儀と一言でいいましてもぴんと来ませんが、人と人との関係の中で、もちろん社会性を鑑みて、最低限というか、人間が守らないとならない人間関係における行動様式のことです。
ぼくのもとによく礼儀のない仕事依頼がきます・
「こういうエッセイを書いてくれ、原稿料は‥円、締め切りは‥日」・・・、たまにあるんですが、ぼくが受けると思います?
もっとも、こういう無作法なのは例外ですが、礼儀をまったくもってない、身なりで決める、頭ごなしな態度をとる人間も、意外といるものです。
なんでこういう言い方が出来るのだろう、とまったく理解できない人間、周囲にいません?
結論は、かかわっちゃダメです。
そういうやつがいたら、瞬時に離れるに限りますね。
☆
実は、今日、まったく礼儀のない人間と遭遇しました。
行きつけのカフェ・レストランでのこと、いつも窓際に、黄色い眼鏡をかけたマダムが座っています。
常連さんらしく、いい身なりをしています。そこのオーナーと仲がいいのか、笑顔で語り合っているのを数度目撃したことがあります。
ま、でも、ぼくはそのマダムと話したことはありませんでした。
そのカフェには顔なじみのジミーというけっこう元気系のギャルソンがいまして(ダーティハリーのようなサングラスをかけた、ちょっと気障っぽいムッシュ)、ま、いいやつなんですが、ミスも多いタイプ、笑、ですかね・・・。
だからかなァ~・
で、今日、ジミーが黄色メガネのマダムに近づいていき、挨拶をしたんです。
で、次の瞬間、ジミーが握手をしようと手を差し出したら、そのマダムが拒否しました。
フランスって握手文化ですからね、これは、何かあったのかな、と思ったわけです。マダムとジミーとのあいだに。
あ、コロナ禍もありましたからね、握手、気にする人もいるのかもしれません。
で、ジミーも握手がダメなら、と次に、小指を出したんです。日本でやる「指切げんまん」のスタイルです。
冗談半分で、手をひっこめられなかったんですね、彼も驚いちゃって、で、小指出すところが、ジミーなんだよね。あはは。
もちろん、黄色メガネのマダムは、それも拒否して、手で犬を追い払うみたいにやったわけです。
しっしっ・・・。
☆
もちろん、二人とも、なんとなく笑顔なんで、最悪というわけじゃないんですけれど、ジミーは、その手をズボンで拭いていました。
二人のあいだに何があったか、わかりませんが、その後、ジミーはそのテーブルにはつかず、別のギャルソンが担当をしていました。
ジミーは笑っていましたが、マダムが帰る時も、見送ることはありませんでした。
そのマダムと面識がなくて、よかった、と思ったわけです。
何があったかわかりませんが、人を手であしらう態度を見たのは、生まれてはじめてだったこともあり、ぼくも衝撃を受けたわけです。
いろいろありますね。
※ うちの庭で今日、収穫されたイチゴです。笑。
礼節ということばがあります。
礼儀と似ていますが、ちょっと違うんです。
たとえば礼儀が表面的で、形だけのものだとすると、礼節というのは、礼儀をただ押し付けるだけじゃなく、相手への人間としてのリスペクトもあり、けして失礼なことにならないようなふるまい、のことなんです。
ま、当たり前のことなんですけれど、このマダムは、礼儀もなにも、そもそも、礼節が欠けているのかもしれません。
毎日、いるお客さんなんで、みんなが気を使っているのが、伝わってきました。
ただ、すくなくとも、こういう考えを持つ人が多いと戦争が起こりやすくなりますね。
礼節が人をつくるんですから・・・。
親しき中にも礼儀あり、ということわざもありますが、ま、そういうことです。
別に立派なことをする必要はないでしょう。
しかし、心に空虚は、いけません。
世界が滅ぶとするなら、それは人間が心を無くす時でしょう。
はい、負けないで、みなさんも今日を精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「礼節が人をつくる」
大切なお知らせ。来月ですよ、早いですねー。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、出没するかもしれません、
7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、出没するかも、
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。